バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 知る

【英国ロイヤル・バレエ日本公演】マヤラ・マグリ(プリンシパル)インタビュー~私だけの物語を語るように

青木かれん Karen AOKI

「リーズの結婚」マヤラ・マグリ ©Andrej Uspenski / RBO

英国ロイヤル・バレエが、2026年7月、3年ぶりの日本公演を行います。今回上演されるのは、フレデリック・アシュトン振付『リーズの結婚』と、不朽の名作『ジゼル』。この両作品に主演するのが、プリンシパルのマヤラ・マグリです。

生命力あふれる踊りと温かみのある演技で魅了する彼女は、これまでどんな道を歩み、いま何を大切に踊っているのか。2025年の「バレエ・スプリーム」公演で来日した際に行ったインタビューをお届けします。

マヤラ・マグリ Mayara Magri
ブラジル生まれ。2011年ローザンヌ国際バレエコンクールで観客賞を受賞し、スカラシップを受け英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学。12年、英国ロイヤル・バレエに入団。15年ファースト・アーティスト、16年ソリスト、18年ファースト・ソリストを経て、21年にプリンシパルに昇格した。©Ballet Channel

🇬🇧

マグリさんは日本の公演にたびたびご出演されていますね。
マグリ 日本の観客はいつも大きな拍手で迎えてくださいます。それが私を駆り立ててくれるんです。日本に来る時はよりベストを尽くしたいと思えるのは、みなさんがどれだけ公演を待ち望んでいたか、その熱意が伝わってくるから。私は日本で踊るのが大好きです。
マグリさんご自身のことについてお聞きします。どんなきっかけでバレエを始めましたか?
マグリ 私は三人姉妹の真ん中で、誕生日会で音楽がかかると姉妹の中でいちばん最初に踊りだすような子どもでした。故郷のブラジルでバレエを始めたのは、8歳の時。友だちが放課後にバレエを習っているのをそばで見ていて、私もやりたい!と思っていたんです。それを母に伝えると、彼女は頭を抱えていました。なぜかというと、私たちは歳が近い姉妹で、ひとりが言い始めるとみんなが同じことをやりたがるから。3人で通うためには、奨学金が受けられるバレエ学校を探さなければいけませんでした。やがてチャンスに巡り合えて、プティ・ダンス・スクールの体験クラスを受けたところ、校長先生が私の踊りを観て「才能がある」と言って、奨学生にしてくださって。そのおかげでバレエ学校でのレッスン費は一切払わずに済み、両親はホッとしていました。
私がスクールでお世話になったのは、シュツットガルト・バレエで11年間踊ったあとブラジルに帰国したばかりだったパトリシア・サルガド先生です。先生は私を、バレエを習い事や地域の発表会の枠を超えた、大きな芸術へと導いてくださいました。また、バレエだけではなくコンテンポラリーやジャズなどさまざまなジャンルを学ぶよう勧めてくださったことも、本当にありがたいことだったなと思います。
私たち家族にとってバレエは未知の世界で、祖父母も両親も誰一人として劇場でバレエを観たことすらありませんでした。でもバレエを始めたことで、家族も少しずつ芸術に触れて、楽しむようになったんです。
バレエ学校時代の忘れられない思い出はありますか?
マグリ ええ、たくさんあります。とくに印象に残っているのは、12歳の時に学校の広場で踊ったこと。暑い日だったし、地面はコンクリートだったし、とても踊りやすいとはいえない環境でしたけれど、同い年くらいの学生たちと一緒に汗だくになりながら踊ったんです。踊り終えてレヴェランスをしたら、舞台を観ていた子どもたちが「すごい!」と歓声をあげながら喜んでくれて。その時の光景を今でもはっきりと覚えています。みんなの笑顔を見て、「踊りは人に力を与えるんだ」と嬉しくなりました。
プロを目指すようになったきっかけは?
マグリ 最初からプロになろうと思って踊っていたわけではなくて、先生方が私の可能性を引き出してくれました。日々さまざまな作品を教えてもらうなかで、私がいちばん刺激を受けたのは、ドラマティック・バレエ。「バレエはチュチュを着て踊るだけじゃない。もっと多様な表現がある」と気がついたんです。まるで映画を観ているかのように、物語に引き込まれていく感覚が好きになりました。私もいつか役を生きてみたい、観客に何かを感じ取ってもらえるような作品を踊りたい。そのためには、プロのダンサーになるしかない!と決意しました。
その後マグリさんは、ローザンヌ国際バレエコンクールでのスカラシップを機に、ロイヤル・バレエ・スクールに留学します。
マグリ バレエへの情熱がこの道へと導いてくれました。協力的でつねに支えてくれた両親にとっては、16歳の子どもをひとりで海外に送り出すのは大きな決断だったと思います。でも私自身は「夢がひとつ叶った!」という喜びとロイヤル・バレエ・スクールへの期待でいっぱいで、寂しさは感じませんでした。
ロンドンに到着してからも、私は落ち込むことはありませんでした。街には音楽があふれていて、観るべきものがたくさんあり、毎日が刺激的。寮はコヴェント・ガーデンのすぐ近くにあって、ずっと夢の続きを見ているような気持ちでした。それにいつも家族に電話していたので、ホームシックもなかったんですよ。自分がやりたいことに向かって集中していたから、どんなことも大変だとは思いませんでした。
もしその頃の自分にメッセージを送れるとしたら?
マグリ 「直感を信じて進んで」と伝えたいです。私は良い先生や先輩に恵まれ、多くを学びました。繰り返し練習して、一歩ずつ前に進むこと。それがプロのダンサーになるための唯一の道だと思います。
これまでを振り返って、ご自身のキャリアを変えたと思う作品は?
マグリ 『ロミオとジュリエット』です。かつてジュリエット役を演じたことのある先生が指導してくださり、ジュリエットが何を思ってその行動に出たのか、その感情を身体でどう表現するのか、芝居と音楽をどう結びつけるか等、お手本を見せるのではなく、自分の力で深く追求するように導いてくださいました。リハーサルは夜遅くまで続き、気が付けば役に没入していたように思います。そして舞台では、ジュリエットが迎える悲しい結末をいっさい考えずに、その瞬間を生きていました。
私たちダンサーは、何度も踊っている作品でも毎回新鮮に、はじめて物語を語るように演じます。でも、それは簡単なことではありません。たくさん踊られてきた作品だからこそ、誰かの真似をするのではなく、私だけの物語を語らなくてはならない。そのことを、『ロミオとジュリエット』を通して強く実感しました。
あなたにとってバレエとは?
マグリ バレエダンサーは、私が自分で選んだ道。この職業を目指す過程で、始めた年齢やレッスンの環境、身体的な条件や、進路の選択などあらゆる要素に左右されますが、結局は本人が「全力でやる」と決めるしかありません。私はバレリーナとして生きることを選んで、ひたすら踊り続けて今に至ります。もちろん、外の世界にも目を向け、毎朝ニュースを読み、広い視野を持つことも心がけています。それでもやはり、私の生活はバレエが中心。スタジオから家に帰ってもバレエの話をよくしています。なぜならバレエは私にとって人生そのものであり、稽古をして舞台に立つ日々は誰しもが経験できることではありませんから。
観客に喜びや感動を届けるのが私たちの仕事。たった一人でも心を動かすことができたのなら、バレエダンサーとしての使命は果たせたと思います。
プロを目指している若いダンサーに向けて、メッセージをお願いします。
マグリ 劇場に足を運んで生の舞台を観てほしいです。YouTubeでスターの踊りを観るのと、実際に劇場で体験するのはまったく違います。
コンクールは刺激的ですが、それがすべてではありません。衣裳をまとって舞台に立った瞬間から、あなたは物語の登場人物になるんです。ただ踊るだけではなく、音楽を感じて、その役が何を表現したいのかをよく考えてほしいと思います。勝ち負けにこだわるのではなく、過程を楽しんでください。時間はあっという間に過ぎます。私もつい最近までブラジルで先生と練習していて、気が付いたら今ここにいる、そんな感覚です。だから、一日一日を大切にしてくださいね。

「リーズの結婚」マヤラ・マグリ ©Andrej Uspenski / RBO

公演情報

英国ロイヤル・バレエ 2026年日本公演 

「リーズの結婚」
会場:川口総合文化センター・リリア フカガワみらいホール(メインホール)

7月3日(金) 18:30
リーズ:マリアネラ・ヌニェス
コーラス:ワディム・ムンタギロフ

7月4日(土)13:00
リーズ:アナ・ローズ・オサリヴァン
コーラス:アクリ瑠嘉

7月4日(土)18:00
リーズ:マヤラ・マグリ
コーラス:マシュー・ボール
*川口総合文化センター・リリア主催公演

7月5日(日)13:00
リーズ:前田紗江
コーラス:カルヴィン・リチャードソン

7月5日(日)18:00
リーズ:フランチェスカ・ヘイワード
コーラス:マルセリーノ・サンベ

上演時間:約2時間20分(休憩1回含む)

「ジゼル」
会場:NHKホール

7月10日(金) 18:30
ジゼル:マリアネラ・ヌニェス
アルブレヒト:ウィリアム・ブレイスウェル

7月11日(土)13:30
ジゼル:サラ・ラム
アルブレヒト:平野 亮一

7月11日(土) 18:30
ジゼル:マヤラ・マグリ
アルブレヒト:リース・クラーク

7月12日(日) 12:00
ジゼル:金子 扶生
アルブレヒト:ワディム・ムンタギロフ

7月12日(日)17:00
ジゼル:フランチェスカ・ヘイワード
アルブレヒト:セザール・コラレス

上演時間:約2時間10分(休憩1回含む)

詳細はこちら
※最新の情報は主催者サイトで要確認

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ