
『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』より「円山町」小栗基裕 撮影:引地信彦
現代演劇における言葉と身体、空間が織りなす可能性を開拓する演劇作家、岡田利規(チェルフィッチュ主宰)による音楽劇『未練の幽霊と怪物-「珊瑚」「円山町」-』が、KAAT神奈川芸術劇場プロデュースにより同劇場にて3月1日まで上演中。横浜公演の後は兵庫、新潟、京都公演とツアー公演が続きます。
本シリーズは、岡田氏が「能」にインスピレーションを受け制作した音楽劇。「夢幻能」(*注)と呼ばれる構造を用いて、現代社会の中で犠牲となり、この世に未練を残した存在を描いています。2021年に上演された第1弾は、2012年新国立競技場の設計者として呼ばれた建築家、ザハ・ハディド(「挫波」)と、稼働することなく廃炉となった高速増殖炉もんじゅ(「敦賀」)をシテに描かれました。今回は、埋め立てが続く辺野古に生息していた「珊瑚」と、社会の渦に翻弄された女性が登場する「円山町」を描いた二本立てです。
(*)さまざまな思いや願いを果たせぬまま亡くなり成仏できずにいる幽霊が“シテ(主人公)”として登場する
「円山町」のシテを演じるのは、ダンサー・俳優の小栗基裕(おぐり・もとひろ)。パフォーマンスグループ s**t kingz(シットキングス)のメンバーであり、舞台や映像でも活動の場を広げている小栗さんにお話を聞きました。

小栗基裕 Motohiro Oguri
1987年1月生まれ。東京都出身。高校時代からダンスを始め、大学在学中の2007年にダンス・パフォーマンスグループs**t kingz(シットキングス)を結成。アメリカ最大のダンスコンテスト「BODY ROCK」で2年連続優勝し、2023年にはダンサー初の単独武道館ライブを行った。三浦大知、King&Princeほか、国内外アーティストの振付を手掛けている。 俳優・小栗基裕としても活動中。おもな出演作品に、映画「孤狼の血 LEVEL2」やドラマ「アンチヒーロー」、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のほか、舞台「球体の球体」「空夢」「ある都市の死」などがある ©Shoko Matsuhashi
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- 岡田利規さんの作品に出演するのは今回が初めてだそうですね。
- 小栗 新作公演のオーディションがあると聞いた時はワクワクしました。知り合いの演出家が「人生でいちばん“くらった”のは岡田さんの作品だ」と言っていたので、これはいい機会だ!と。オーディションはワークショップ形式でした。岡田さんが出した課題は、「自分の家をみんなに説明する」。続いて「自分以外の人の家を想像で説明してみる」。めちゃくちゃ緊張したけれど、すごく面白かったです。
- 今回の作品について教えてください。
- 小栗 『未練の幽霊と怪物』は「珊瑚」と「円山町」の二本立てで、能のフォーマットでつくられた作品です。僕は「円山町」の“シテ”(*注)を演じます。
- (*)能や狂言における物語の主人公を指す
- 岡田さんの書くセリフには、リアルな話し言葉を用いた独特のリズムがあります。台本を読んでどう感じましたか?
- 小栗 言葉ってすごい!と思いました。セリフを読み重ねるたびに、言葉の印象がどんどん変わっていくんですよ。そのたびに単語そのもののパワーを感じます。あるセリフを言うたびに頭に浮かんでくる景色があるのですが、それがまったく違う場所に見えて、驚くこともあります。

©Shoko Matsuhashi
- 「円山町」の振付は小栗さんみずから手掛けているそうですね。
- 小栗 はい。オーディションでも岡田さんに「こういう言葉からはどんな動きが生まれますか?」と聞かれて、実際に動いてみるようなことをしたのですが、それを稽古場でも実践しています。まずは即興で踊ってみる、岡田さんの意見や提案を聞いて少しずつ調整する、という流れです。ふたりでつくるのは難しそうに聞こえるかもしれないですけれど、意外と順調に進んでいます。お互いに「こんな動きはどうでしょう?」「それは面白い! じゃあ、この言葉からはどうでしょう?」とやり取りを重ねて、あれこれ動いてみていると、ぼんやりとガイドラインが見え始める。それに合う動きを選んで、肉付けしていきます。
- 普段の振付とは、かなり勝手が違うのでは?
- 小栗 普段ならまず音楽やテーマがあって、それに合うダンスを考えますからね。かなり新鮮なアプローチで、振付としてどこがゴールなのか分からない。もしかしたら、本番で新しい動きが生まれるかもしれないです。予測不可能なのってドキドキしますけれど、どんなことがあっても自分の中で筋が通っているようにしっかり稽古して、ハプニングを楽しめるくらいの気持ちで本番を迎えたいと思います。
- 振付において「この言葉だけは絶対に大切にしてほしい」と言われたポイントはありますか?
- 小栗 ありますね。そこはつねに意識しています。ええと(考え込み)……僕、もしも台本を路線図に例えるとしたら、セリフを作る一つひとつの単語は「駅」みたいなものだな、って考えているんです。台本の言葉全部を同じ熱量で表現することは、各駅停車に乗って、一駅一駅止まりながら終点まで行くことと似ているんじゃないかなと。今回の膨大なセリフをこの路線図に置き換えてみると、急行電車に乗っても通過しない、どんな電車でも必ず停まる駅にあたる単語や言葉がある。そこは身体表現でも絶対にはずしちゃいけない、守らなくてはいけないところなんです。通過する駅にあたる部分を急行の停車駅と停車駅の間でカバーしながら、台本という線路をまっすぐ進んでいく……伝わりますか? いい例えだと思うんですけれど(笑)。
- 面白いですね!
- 小栗 台本にある言葉(歌詞)を謡手の里アンナさんが歌で表現する場面では、僕は言葉を身体表現にトランスフォームします。例えば「嬉しい」という歌詞なら、「嬉しい」が持つポジティブなエネルギーを大事にしつつ、ダンスに再構築していくんです。
- ダンサーとしてここを見せたい、という部分は?
- 小栗 この作品はダンサーの主観で余計な色を付けたらダメです。普段の僕なら、自分の振付でオーディエンスやダンサーに「Woo!」って言わせるにはどうするか探りながら作りますし、本音を言えば、今回もそういう気持ちもないとは言えない(笑)。でも、今回の舞台のダンスに関して言えば、僕自身が全面に出るような踊りになってしまったら、それは絶対に間違いです。
いま、ふと気づいたんですけれど、僕、今回の稽古で鏡を全然見ていない……! そうか、客観的な視点は演出家の目に委ねて、自分の奥のほうだけを感じて踊っていたから、いままで必要だと思わなかったんですね。
- 鏡を見ることを忘れていた、とは驚きです。
- 小栗 僕も驚いています(笑)。いま持てている感覚は、鏡に囚われずに踊ることで得られたものなんだと思います。見てしまえば、どうしたって自分のパフォーマンスが他人にどう映っているのか気になってしまうけれど、それを取り払えたことで、踊りに自由を感じられる。これって素敵ですね。

©Shoko Matsuhashi
- 小栗さんとダンスとの出会いについて聞かせてください。
- 小栗 小学生の頃には、テレビでDA PUMPやSPEEDがガンガン踊っているのに憧れていました。「俺もこんなふうに踊ってみたい!」と思いつつ、知らない世界に入るのが怖かったので、習い出したのは高校に入ってから。インターネットでダンスについて調べていたら、たまたま家の近くにスタジオがあって、「ちょっと覗いてみよう」程度の気持ちで行ってみたら、その結果、ドハマりしました!
- どのジャンルのダンスから習い始めたのですか?
- 小栗 そもそもダンスにジャンルがあることも知らなかったから、スタートクラスっていうのに入りました。リズムトレーニングから始めて、いろいろなダンスの基礎をちょっとずつ教えてもらいました。ロックダンスに出会ったのもこの頃です。
- 小栗さんが習ったたくさんのダンスのジャンルの中に、バレエはありましたか?
- 小栗 はい。大学の時にジャズダンスを学びに行ったスタジオでバレエも経験しています。バレエって、考え抜かれた踊りですよね。僕は身体が硬すぎて苦労したけれど、美しい姿勢を保つためにどう胸を開けばいいか、腕を長く見せるために身体のどこを使えばいいか、全部機能的に組みこまれている。いま僕がやっている踊りは「○○」というジャンルでは括れないんですけれど、バレエを習ったことは確実に糧になっていると思います。

「スイッチ入ると止まらなくなりますね」と言いつつ、階段の踊り場で即興パフォーマンスをしてくれました ©Shoko Matsuhashi
- 最近のダンスはユニゾンが流行しているように思いますが、その傾向についてどう感じますか?
- 小栗 一体感のあるダンスには、それでしか出せない美しさがあります。僕たちs**t kingz(シットキングス)もユニゾンを売りにしてきたところはあるし、もちろん大事にしていきたいです。でも、フリーパフォーマンスで何か表現したいものがある時は、型で動きを制約されない踊りがしたいなと思います。たくさんのジャンルを学んできましたけれど、フォーメーションや型を意識したダンスやポーズで繋ぐ振付よりも、「自分の内面から踊る」ほうが好きです。僕、スチール撮影で「決めポーズをお願いします」の声に応えるのも苦手なんですよ(笑)。「自分の内側でうねる何か」が音楽に乗る……僕はそれをグルーヴと呼びたいんですけれど、動き続ける中で音楽を感じる、そんな踊りをしている時がいちばん楽しいですね。

©Shoko Matsuhashi
- ところで、プライベートで好きなことは?
- 小栗 友達とお酒を飲むのが好きです。ダンス仲間とも、ダンサーじゃない人とも行きます。
- お酒の席でもダンスの話をしますか?
- 小栗 いや、むしろ全然違う話がしたいな。ダンスについて真剣に語る時間も充実はするけれど、みんなで酔っぱらってお笑いを観て笑ったり、くだらない話をしている時に「あー!楽しい!」って感じるあの瞬間が好きなんですよ。
- 最後の質問です。小栗さんにとってダンスとは?
- 小栗 来ましたね(笑)……神様です。手を合わせたい、とかいうことじゃなくて、僕にとってのダンスは神聖なものというか、超越した存在のように感じるんです。踊ることで、僕はその神様とつながりたい。そう思っています。
- 『円山町』の後シテは、まさに神様のすぐ近くで踊ることができる役どころでは?
- 小栗 はい、本当に! 邪念を取り払って、ピュアにただ存在することを大事に表現して、少しでもダンスの神様に近づかないと。そういう意味でも、大きなチャレンジになります。

©Shoko Matsuhashi
ヘアメイク:佐々木麻里子
スタイリスト:大西力哉
ジャケット¥73,700 シャツ¥69,300 パンツ¥62,700 すべてETHOSENS/ETHOSENS of whitesauce(☎03-6809-0470)
小栗基裕Instagram https://www.instagram.com/oguristkgz/
S**t kingzオフィシャルサイト https://shitkingz.jp
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公演情報
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『未練の幽霊と怪物-「珊瑚」「円山町」-』

神奈川公演
【日程】2月13日(金)~3月1日(日)
【会場】KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
兵庫公演
【日程】3月7日(土)~3月8日(日)
【会場】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
新潟公演
【日程】3月15日(日)
【会場】りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
京都公演
【日程】3月21日(土)~3月22日(日)
【会場】ロームシアター京都 サウスホール
【出演】
アオイヤマダ、小栗基裕(s**t kingz)
石倉来輝、七瀬恋彩、清島千楓
片桐はいり
謡手:里アンナ
演奏:内橋和久
【スタッフ】
作・演出:岡田利規
音楽監督:内橋和久
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