動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
2025年9月26日からK-BALLET TOKYO『ドン・キホーテ』が開幕しました。
同作は、熊川哲也が2004年に演出・再振付し、舞台美術・衣裳も自ら手掛けたカンパニーの代表作。2021年の公演以来4年ぶりの上演となる今回は、イングリッシュ・ナショナル・バレエのリード・プリンシパル加瀬栞をゲストに迎え、日髙世菜&石橋奨也、加瀬栞&山本雅也、岩井優花&堀内將平、長尾美音&武井隼人の総勢4組のキャストが主演します。
開幕を目前に控えた9月、リハーサルに臨むダンサーたちを取材。今回はキトリ役初主演となるファースト・ソリストの長尾美音さんに、公演への意気込みと作品の魅力について聞きました。
リハーサル&インタビュー動画と合わせてお楽しみください。

長尾美音 Mine Nagao
和歌山県生まれ。4歳よりバレエを始める。2020年9月Kバレエ カンパニー(現Kバレエ トウキョウ)にアパレンティスとして入団。2021年9月アーティスト、23年9月ファースト・アーティスト、24年7月ソリスト、25年7月ファースト・ソリストに昇格。
- ファースト・ソリストへの昇格おめでとうございます。まずは先シーズンを振り返っての感想から聞かせてください。
- 長尾 盛りだくさんなシーズンで、とても濃い一年でした。『シンデレラ』に『海賊』、『白鳥の湖』に25周年ガラと、リハーサルに励むうちにあっという間に時が流れていて、昔のことのように感じてしまいます。
なかでも今年5月の『白鳥の湖』は、はじめて主演を務めさせていただいたこともあって、記憶に残っています。踊っている時は、とにかくやらなきゃ!と目の前のことに精一杯で、あまり実感が湧かなかったんです。舞台を終えていろんな方から声をかけていただいて、本当にすごい経験をさせていただいたんだとあらためて感じました。これからの公演もさらに自覚を持ってやっていかなければと気を引き締めています。
- まもなく開幕する『ドン・キホーテ』では、初役でキトリ役を踊ります。配役を知った時の気持ちは?
- 長尾 カンパニーとして4年ぶりに『ドン・キホーテ』を上演するというお知らせがあった日に、配役も発表されたんです。まさかキトリ役を踊ることになるなんて想像もしていなかったので、本当に驚きました。先週本格的なリハーサルが始まったばかりで、まずはテクニックの部分を詰めているところです。※取材は9月上旬
- キトリは、これまで演じたキャラクターのどれとも違う役どころですね。
- 長尾 今までどこか冷たい印象を持った強めの役が多かったのですが、キトリは雰囲気もガラっと変わって、明るくて人間味のあるキャラクターだと感じています。私は少しゆったりと踊る癖があるので、指先の使い方ひとつとっても、はっきりと印象付けるように踊りたいです。とくに扇子の使い方について、「ゆっくり開いたり閉じたりする時と、音がするくらい勢いよく使う時とで分けるように」というアドバイスをいただきました。
- 長尾さんが思い描くキトリ像とは?
- 長尾 元気いっぱいで、サラッとしているイメージがあります。少しわがままなところもあるけれど、そこがキトリらしくて。とくにバジルに対してはツンデレですよね(笑)。たまに甘えるところが可愛いし、お父さんに対してもよくツンツンしていて、きっと愛されて育ったんだなと思います。
- 今回一緒に組むバジル役は武井隼人さんですね。
- 長尾 隼人くんはすでにバジルっぽくて華やかで、私も自然と役に入ることができます。お互いにフレッシュさを大切にして、元気なところをお見せしたいです。
- お芝居のシーンも多くありますが、キャラクターたちとの掛け合いで心がけていることは?
- 長尾 お芝居のかけ合いで間が空くと、時間を持て余しているような気がして、何かしなきゃと焦ってしまうことがありました。でも決してそうではなくて、何もしない時間があったほうがお芝居は生きるのだと教えていただきました。それに無理に大きな動作をすると、かえってうるさくなって何をしているのかが伝わらないのだと。ですから、お芝居では動きすぎないように意識しています。
- キトリといえば、ヴァリエーションも見どころのひとつです。
- 長尾 幕ごとに変化をつけたいと思っています。第1幕は登場シーンからパッと目を引く勢いがあり、明るくて華やかな“ザ・キトリ”ともいえるヴァリエーションが続くのでエネルギッシュに。第2幕は優雅に大人っぽく。第3幕は第1幕と同じパワフルさは残しつつ、もっと成長した上品な雰囲気を出していきたいです。
- コーダのグラン・フェッテも見逃せません。
- 長尾 『ラ・バヤデール』のガムザッティの時に、はじめて全幕の舞台でグラン・フェッテを回りました。その時は、直前まで失敗しないかな……と少し緊張していたんです。最近は比較的落ち着いてピルエットに入れるようになって、緊張するよりも回転の後半に向かって溜まってくる脚の疲れをどうカバーするかに意識を向けています。「軸脚、頑張って立つ!」と自分に言い聞かせながら回っています(笑)。
- 回転とジャンプではどちらが好きですか?
- 長尾 どちらかというとジャンプです。いちばん好きなパは、グラン・パ・ド・シャ。『ドン・キホーテ』にもたくさん出てくるので、しっかりお見せできたらと思います。
- 全幕を通して好きなシーンはありますか?
- 長尾 先日、リハーサルで第2幕の酒場のシーンを演じたのですが、場を盛り上げる振付が多くてテンションが上がりました。“鈴虫のパ・ド・ドゥ”と呼ばれている第2幕の最初の場面がとくに好きです。『ドン・キホーテ』のなかでいちばんゆったりとしたシーンで、それまでの賑やかな雰囲気とは真逆の静けさが素敵だなと思っています。
- 『ドン・キホーテ』の華やかな衣裳も見どころです。キトリでいちばん好きな衣裳は?
- 長尾 どれも素敵で悩みますね(笑)。第2幕のブルーの衣裳は色も綺麗ですごく好きです。ふだんチュチュを着させていただくことが多いので、ロングの衣裳は新鮮でちょっと楽しいんです。

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- 今年で入団して5年を迎える長尾さん。これまで踊ってきたなかで印象的だった作品は?
- 長尾 いただいた役のすべてが思い出に残っています。最近では『眠れる森の美女』や『マーメイド』などが、クリエーションの段階から参加させていただいて思い入れがあります。『眠れる森の美女』のフェアリーも、『マーメイド』のプリンセスも、振付を作っていくところからのスタートでした。振りを身体に入れながら、誰も演じたことのない役を仕上げていくのは大変でしたが、とても印象に残っています。
- 新制作の作品と、『ドン・キホーテ』のように再演となる作品とで役作りの進め方は変わりますか?
- 長尾 とくに新制作では、それぞれのキャラクターの個性や物語における役割をきちんと掴むところから始めています。ダンサーにとってもお客様にとっても新しい役ですので、クラシカルな表現だけではなく、どうやったらその個性を出せるのだろうとつねに考えていました。
いっぽう何度も再演されている作品では、まずはディレクターが演じた時のDVDを観て、先輩方のリハーサルを横で見学しています。それから他のカンパニーの同じ作品を観ることも。参考になるところを取り入れつつ、自分らしさが見えるような役作りができたらと思います。
- これまでの指導で印象的だったアドバイスはありますか?
- 長尾 目線の使い方を指導していただくことが多くて。オデットはちょっと伏目というように、役によって目線の使い方が異なり、とても勉強になりました。ガムザッティの時はとにかく目力!と言われていました。
- 踊るうえで心がけていることはありますか?
- 長尾 全身をのびのびと使って踊ると動きが流れてしまいがちになるので、正しいポジションをきちんと通るように意識しています。上体と脚は繋がっているけれど、それぞれを分けて使うイメージです。脚をすばやく動かしていても、上体は柔らかく、優雅に見せるようにしています。
- 長尾さんが舞台で大切にしていることは?
- 長尾 観に来てくださる方に楽しんでもらいたい、今日観て良かったなと思っていただきたい。そのために、これまで自分がやってきたことをきちんと舞台で出すようにしています。練習で積み重ねた感覚を信じつつ、いつもより少しアラベスクを伸ばしてみたりと、その日にしかないものも表現できるように心がけています。
- 今後どんなダンサーになりたいですか?
- 長尾 踊りのクオリティはもちろん、人間としてお互いを尊敬しあえるようなダンサーになりたいです。舞台でいい雰囲気を作れるように、コミュニケーションも大切にしたいと思っています。
憧れの役は、シンデレラとオーロラ姫です。もしチャンスをいただけるなら、『白鳥の湖』のオデットとオディールももう一度踊らせていただきたいです。
- 公演を楽しみに待っている読者へメッセージを。
- 長尾 お客さまも一緒に盛り上げられるように、私自身も楽しみながら演じます。幕ごと成長していくキトリの姿を観ていただきたいです。バジルとの掛け合いの部分も研究しているので、ぜひ演技の部分にも注目してください。

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公演情報
K-BALLET TOKYO『ドン・キホーテ』
【日程・会場】
●東京(上野)
9月26日(金)13:00/18:00
9月27日(土)12:30/16:45
9月28日(日)14:00
東京文化会館 大ホール
●東京(渋谷)
10月18日(土)18:30
10月19日(日)12:30/16:45
10月25日(土)18:30
10月26日(日)12:30
Bunkamuraオーチャードホール
【詳細・問合せ】
K-BALLET TOKYO 公演サイト