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【ドラマ「バレエ男子!」】草刈民代インタビュー〜ダンサーの葛藤も、日本のバレエ環境も、リアルに描く。これは“バレエ・ダンサーの物語”です

阿部さや子 Sayako ABE

毎週木曜日の深夜、MBSドラマフィル枠にて放送中のオリジナルドラマ「バレエ男子!」。自らも踊りながら、パートナーのバレリーナを美しく支える“縁の下の力持ち”的存在でもある男性ダンサーたちの日常を描く、バレエ・お仕事・コメディドラマです。

主人公のナルシストなダンサー〈小林八誠〉役は戸塚純貴さん、八誠の頼れる先輩でキャラクテールの名手〈守山正信〉こと通称マモさん役は大東駿介さん、八誠の同期でプロレスオタクの天才肌のダンサー〈佐々木真白〉役は吉澤要人さん(原因は自分にある。)。人気俳優たちが、ほぼ吹き替えなしでバレエシーンに挑んでいるところも大きな見どころです。

本作のバレエ監修・指導を担当したのは、女優で元バレリーナの草刈民代さん。草刈さんは準備段階から本編撮影に至るまでバレエ指導を行い、バレエ監修の立場から編集にも携わるなど全面協力。さらに元・牧阿佐美バレヱ団プリンシパルの菊地研さんもバレエ指導に加わり、2人の全面サポートのもとで、本作のバレエシーンは撮影されました。

3月下旬、バレエシーンの撮影を終えたばかりの草刈民代さんにお話を聞きました。

草刈民代(くさかり・たみよ)東京都生まれ。1973年小林紀子バレエバレエアカデミーにてバレエを始め、78年橘バレエ学校入学。84年牧阿佐美バレエ団入団。同団の主要バレリーナとして活躍する他、レニングラード・バレエシアター、モスクワ音楽劇場、レニングラード国立バレエ、新国立劇場バレエなどに客演。96年、映画「Shall we ダンス?」(周防正行監督)に主演。09年自らプロデュースした「Esprit〜ローラン・プティの世界」でバレリーナとしての幕を閉じた後は、女優として活躍中。21年「INFINITY DANCING TRANSFORMATION」、22年「キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO」、23年ローラン・プティHOMAGE「INFINITY − PREMIUM BALLET GALA 2023 −」など、自ら芸術監督を務める公演のプロデュースも精力的に行っている。 ©Shinji Masakawa

最初にこのドラマの企画を聞いた時の印象は?
草刈 「何だろうこれは?」と思いました(笑)。「バレエをモチーフにしたお仕事コメディ? 主人公の男性ダンサーが“バレエをやめるまでの話”……??」と。でも、企画したのが元・牧阿佐美バレヱ団の上原大也さんだと知って納得しました。上原さんは私がバレエを引退する頃に入団してきた世代ですので、舞台での共演はほとんどありませんが、バレエ団で一緒に稽古をしていた時期はあったようです。世代が違うので接点はありませんでしたが、彼のことは覚えていました。その彼がバレエダンサーをやめて、セカンドキャリアとして番組制作の仕事に就き、このドラマを企画した。今は様々なドラマがありますが、企画が通るのは大変なことだと思います。ぜひ、協力したいと思いました。
草刈さんはバレエ監修・指導という立場で、ドラマ全体に大きく関わっているそうですね。
草刈 主演の戸塚純貴さんは「踊ったこともない」とおっしゃっていたくらいなので、まず、バレエシーンに関しては、絶対に怪我をさせないようにと思っていました。そして、 目指す範囲を明確にし、それぞれの役に何を踊ってもらうのかを整理していきました。それでも第1話から最終話まで、クラスレッスンのシーンや『ラ・シルフィード』『ゼンツァーノの花祭り』などの作品を踊る場面が盛り込まれていましたし、そうしたバレエシーンを役者さんたちが吹き替えなしに挑戦したわけなので、かなり実験的なところがある作品だと思います。バレエは一朝一夕でできるものではありませんので、その挑戦がいかに大変なことかは、バレエを知っている方ならよくご理解いただけると思います。

またドラマの部分については、等身大のバレエダンサーの姿をきちんと描いていただきたいという思いがありました。現役のダンサーは葛藤だらけだと思います。そこがきちんと描かれなければバレエのドラマにはならない。全編を通して面白おかしく描かれていますけれど、本質的にはちゃんと「バレエ・ダンサーの物語」になったと思っています。

撮影現場では、具体的にどんな点にこだわって指導をしましたか?
草刈 今回指導したのはダンサーではなく、俳優で、各俳優さんがそれぞれの役を演ずるためのレッスンでしたので、みなさんが役柄を掴めるように、ということを意識してレッスンを進めていきました。テレビドラマのような映像の中で“バレエらしさ”を表現するには、まず“顔つき”がとても重要だと思います。王子には王子らしい顔つき、ロットバルトにはロットバルトらしい顔つきがありますが、バレエの場合、その顔つきになるために重要なのは、一つひとつのポジション、ポーズ、動きを正しく行うことだと思うのです。例えばスパニッシュの踊りなら、スパニッシュならではの手や肩のポジションがビシッと決まると、顔つきも自然とそれらしくなります。ですから俳優さんたちには、ポジションやポーズをできる限り正しく行ってもらうよう意識して指導しました。

バレエシーンの撮影現場にて。八誠役の戸田純貴さん(写真中央)の指導にあたる草刈民代さんと菊地研さん ©Ballet Channel

しかしバレエ初挑戦の俳優さんたちにとっては、正しいポジションやポーズを作ること自体が難しいのでは……?
草刈 バレエの身体性とは種類が違うものですが、俳優には俳優の身体性があります。優れた役者さんが凄いのは、求められているポーズや顔つきの雰囲気を瞬時につかみ、“自分のもの”にできるところです。ダンサーが、求められた動きを正確に再現しようとするのに対して、役者さんたちはそのポーズの雰囲気をつかみ、それを自分のものとして表現していく。これが踊りと芝居の、スタート地点の大きな違いだと私は感じています。

ダンサーにとって振付は「言葉」のようなもの。まずはステップに忠実に動けなければ話になりません。ですが、俳優に問われるものは、「セリフに並んでいる言葉を忠実に声にする」だけでは難しく、自発性や即興性がなければ、成立しないものだと思うのです。バレエの場合は表現の自発性や即興性は、後から付いてくるものだと思いますし、その比重があまりにも大きい人は、おそらくバレエには向かないはずです。ですが俳優の場合は、最初の段階からその部分も含めて「芝居」という認識なのだと思うのです。受け身なだけではなかなか先に進めるものではありません。一番若い吉澤要人さんはバレエ経験者でしたが、戸塚さんや大東俊介さんはまったくの未経験。でも、それぞれにかなりの数の作品に関わり、様々な経験を通して俳優として鍛えられてきているので、レッスンや撮影中の集中力と瞬発力には凄いものがありました。私は俳優としても仕事もさせていただいていますので、バレエ男子の3人からは大きな刺激を受けました。

その意味で、とくに印象に残っているシーンやエピソードはありますか?
草刈 たくさんありますが、たとえば、大東駿介さん演じるマモさんのポーズ写真を撮影した時のこと。マモさんはキャラクテールを得意とするベテランダンサーという役どころで、彼がロットバルトやティボルトを演じる姿が、写真で出てくるシーンがあります(第5話)。その撮影は凄かったです。私が「ロットバルトはこういう感じで……」と動きや言葉で雰囲気を説明すると、大東さんは一瞬で“ロットバルトらしさ”をキャッチして、カメラの前で見事に表情やポーズを作って見せてくれました。俳優の凄さを見せつけられました。
バレエは“それらしく見せる”のがとても難しいダンスだと思いますが、ロットバルトやティボルトといった役の雰囲気まで出せるなんて、さすがですね。
草刈 戸塚さん、大東さん、吉澤さんは、今回バレエダンサーを演じたことで、これまでとは違う身体感覚やメンタルの領域を経験したようです。ドラマ自体は深夜枠のドタバタコメディですが、時間のないなかでバレエに取り組み、各俳優が自分の持ち味を活かして役柄を演じている姿には、バレエダンサーを演じなければ見られない表情や、佇まいがあると感じています。私は、ダンサーの方々がドラマを見た時に、同じように表現を志す人として、バレエ男子の3人から何かしらの刺激を受けてもらえたらと思っています。

撮影現場では綾部真弥監督と一緒に映像チェックも ©Ballet Channel

監修・指導をするなかで、難しかったことはありますか?
草刈 バレエ団の稽古シーンや、八誠がバレエ教室で教えをしているシーンなどで使うレッスン曲を選ぶのには神経を使いました。「稽古場らしい雰囲気が出るように」とか、「ここはドラマの主題歌が終わってすぐの場面だから軽やかな曲に」とか、「ここは登場人物の心情に合う曲を」とか、いろいろな要素を加味して選ぶ必要があると思ったので。
八誠役の戸塚さんは、バレエを踊るだけでなく、先生として教えるシーンもあるわけですね。
草刈 はい。驚かされたのは、八誠が中学生の生徒を教えるシーン。グラン・ワルツで、トンべ、パ・ド・ブーレ、シャッセ、前アッサンブレと生徒が踊るなか、アッサンブレのときに八誠が「空中で内腿をつけて!」と注意を飛ばすのですが、戸塚さんは完全に音楽のリズムに合わせて、いつも教えている人のようなタイミングで言えたんです。教える時に適切なタイミングで声をかけるのは音楽性がないとできないことですが、「まったく踊ったことがない」と言いつつ、バレエの先生を演じる時にはそれができるわけですから、そこが俳優の凄さであり、戸塚さんの役者としてのポテンシャルの高さだと思いました。
八誠たちの所属する小森川バレエ団の団員たちは、バレエシャンブルウエストのダンサーたちが演じていますね。
草刈 芸術監督の川口ゆり子先生、今村博明先生をはじめ、みなさんとても協力的に参加してくれました。そして、撮影が進むにつれ芝居することに慣れて、楽しんでいるようでした。彼ら・彼女らが普段バレエ団の稽古場でやるように、何気なくウォーミングアップしたり脚を上げたりしていると、そばで戸塚さん、大東さんや吉澤さんがストレッチを始めたりして。その光景がとても自然で、最終的にはもう誰が役者で誰がバレエダンサーか見分けがつかないくらい、完全に溶け合っていました。
本作はコメディタッチでありながら、3人の男性バレエダンサーそれぞれの生き方が描かれていて、ホロリとくるところもありますね。
草刈 「小森川バレエ団」は架空のバレエ団ですが、日本のバレエの環境に踏み込んで、それを物語の背景にしているところが、このドラマの大きな特徴だと思います。私が見ても非常にリアリティがあって、登場人物たちが現実に存在しているダンサーのようです。それはやはり、子どもの頃からバレエに取り組んできた上原さんが企画したことが大きいのでしょう。
読者のみなさんにメッセージを。
草刈 バレエのドラマは、バレエのシーンがどうなるかによって、物語の見え方が大きく変わります。バレエ監修・指導の責任は重大でした。稽古から撮影まで、ギリギリの期間でしたが、私なりに誠心誠意エネルギーを注ぎ込んだつもりです。バレエファンのみなさんが見ても見応え充分なシーンや、バレエを知っているといっそう面白みがわかるシーンなど、良いシーンがたくさんあると思います。ぜひ放送や配信でお楽しみください。

©Shinji Masakawa

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番組情報

©「バレエ男子!」製作委員会・MBS

ドラマフィル「バレエ男子!」

【キャスト】
戸塚純貴
大東駿介
吉澤要人(原因は自分にある。)

あらすじ》
小森川バレエ団に所属するナルシストなバレエダンサー小林八誠(こばやし・はっせい)29歳。男子バレエをよりメジャーにするため、そして自分の顔を売るために、映像配信などの活動も積極的に行っている。ベテランダンサーの守山正信(もりやま・まさのぶ)と同期の佐々木真白(ささき・ましろ)とは、世代は違えど何となく集まってしまう仲の良い3人組。八誠たちは、昼間はバレエ団のリハーサル、夜はバレエ教室で教えるなど、何気ない日々を過ごしていたが、ある日の帰り道、トラブルが発生。その後、八誠は「俺、今年いっぱいでバレエやめるんだ。」と衝撃の告白をする。なぜ、八誠は「やめる」と決意したのか。誰よりもバレエ好きな八誠の、〈バレエと向き合う最後の一年〉の幕が上がる。

2025年5月1日(木)よりMBSドラマフィル枠にて放送中

監督:綾部真弥
脚本:岸本鮎佳
バレエ監修・指導:草刈民代
バレエ指導:菊地研
プロデューサー:上原大也、村島亘、池田卓行、大野貴裕
制作プロダクション:セディックドゥ
製作:「バレエ男子!」製作委員会・MBS

【放送】
MBS(毎日放送):毎週木曜 25:29~
テレビ神奈川:毎週木曜 25:00〜
テレビ埼⽟:毎週月曜 24:00~
群⾺テレビ:毎週火曜 24:30~
とちぎテレビ:毎週水曜 23:30~
チバテレ:毎週木曜 23:00~

【配信】
TVer、MBS動画イズムで見逃し配信1週間あり

【公式SNS】
ドラマ公式X:@dramaphil_mbs
ドラマ公式Instagram: @dramaphil_mbs
MBSドラマ公式TikTok:@drama_mbs

【ドラマ公式HP】
https://www.mbs.jp/ballet_danshi/

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