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【動画つき】「イノック・アーデン」インタビュー②生方隆之介(東京バレエ団)~セリフに合わせて踊るのは初めて。言葉の持つパワーを再発見しました

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

動画撮影:星野一翔(STARTS)・奥田祥智(オクダ企画)/編集:星野一翔(STARTS)
※動画テロップ注:南江祐生の「ゆう」は示すへんに右

2025年3月7日(金)~16日(日)新国立劇場 小劇場で上演中の『イノック・アーデン』。原作はヴィクトリア朝の桂冠詩人アルフレッド・テニスンによる物語詩。その音楽的韻律に感銘を受けた作曲家のリヒャルト・シュトラウスが後に音楽を紡ぎました。

原作の言葉と音楽を忠実に再現した今回のステージは、3人の登場人物をダンサーが踊り、イノックの人生を2人の俳優が語ります。演出・振付は、舞台『レイディマクベス』『カスパー』をはじめ、新国立劇場バレエ団『マクベス』など多くの作品を生んでいる国際的振付家、ウィル・タケット田代万里生中嶋朋子が朗読を、東京バレエ団の秋山瑛生方隆之介南江祐生がダンサーとして出演します。

アニーに思いを寄せる青年、フィリップ役を演じる生方隆之介さんのインタビューをお届けします。リハーサル動画と合わせてお楽しみください。

生方隆之介(うぶかた・りゅうのすけ) 群馬県生まれ。4歳よりバレエを始める。東京バレエ学校で学び、同校Sクラスの海外研修制度で2015年にワガノワ・バレエ・アカデミーに留学。17年9月よりハンガリー国立バレエ・スクールで2年間学ぶ。19年東京バレエ団に入団。21年ソリスト、24年ファーストソリストに昇進。©Ballet Channel

バレエ以外の公演に出演すると決まった時、どう思いましたか?
生方 当初わかっていたのは、それが長編の朗読劇であることと、僕が踊るのはフィリップ役だということ、そしてウィル・タケットさんが演出・振付をされるということだけでした。演劇の舞台は未経験だし、どんな舞台になるのかも、どれくらい踊るのかもイメージできずに、最初は少し不安でした。ウィルさんとご一緒するのも初めてで、「面識のない僕をなぜフィリップ役に選んでくれたんだろう、ちゃんと務められるだろうか」とリハーサル開始までずっとドキドキしていました。振り写しが始まってから今日で10日ほど(※編集部注:取材は2月下旬)ですが、かなりハイテンポで進んでいます。振り写し以外に覚えることも多く、必死で付いて行く日々です。
先日リハーサルを見学しましたが、ダンサーのみなさんは俳優の朗読とピアノ演奏にあわせて踊るのですね。
生方 はい。僕が予想していたよりも踊るシーンがたくさんありました。バレエ公演のような派手なジャンプなどはありませんが、クラシック・バレエをベースにした振付に、オフバランスなどの動きがプラスされたり、さらにモダンな要素も加わっています。ダンスが好きな人ならどなたでも楽しんでいただけると思います。

©Ballet Channel

演劇の稽古場に参加してみて難しいと感じたところは?
生方 音楽や朗読、そして僕らの動きそれぞれにきっかけがある場面が多くて、それが日に日に変わっていくのがとても大変だなと。今回は場所の制約もあって動きのルートも細かく決まっていますし、小道具を出すタイミングや衣裳の着脱も難しい要素の一つです。
こういうところが楽しい、興味深いと思うことはありますか?
生方 セリフに合わせて踊ったり動いたりすることです。バレエは表現の要素が踊りと音楽のふたつしかないけれど、今回はそこに言葉という第三の要素が加わってくる。その中で踊る感覚は、ダンサーの僕にとってはすごく新鮮でした。舞台で踊っている自分の中に言葉の情報が入ってくる経験なんてしたことがなかったし、声のトーンやスピードを駆使した言葉や声そのもののパワーに、こちらの感情が揺さぶられることもあって、言葉が人に与える影響力の強さってすごいと感じます。

©Ballet Channel

演出・振付のウィル・タケットさんはどんな方ですか?
生方 ユーモアのある方です。冗談も好きで、リハーサル中にもよく笑いがおこります。なかでも面白かったのは、フィリップがアニーと彼女の子どもたちに愛情をもって語り掛ける場面を稽古していた時のこと。「森で騒いでいる子どもたちの声を聞いてごらんよ!」というセリフがあるのですが、ウィルさんがリハーサルの中で、「実際の子どもたちってキャッキャと可愛くはしゃぐわけじゃなくて、もっとバカみたいになっているよね」とリアクションたっぷりに騒ぐ子どもの真似をし始めたんです。その日はここのセリフを言うシーンでみんなが笑い出してしまい、全員集中できていませんでした(笑)。
楽しそうですね!
生方 思いっきり楽しんでいます。稽古場の空気がいつも和やかで心地いいんですよ。ウィルさんはセリフだけでなく、音楽だったり、小道具や舞台装置、色々なものを取り入れて舞台をつくっていく。素晴らしいセンスを持った方だと思います。リハーサル中、僕たちが振付とは違う動きをした時に「それ、いいね!」と取り入れてくださることもあります。ウィルさんを中心に、キャストとスタッフみんなでつくっていると実感できるし、僕もその一員なんだと思うと嬉しくなります。

©Ballet Channel

生方さんが演じるフィリップはどんなキャラクターで、どう演じたいと思っていますか?
生方 (秋山)瑛さん演じるアニーに恋する青年で、イノックとは対照的な性格。優しいが故に自分の気持ちをなかなか言えずにいるところがあります。僕も気持ちを人に伝えるのが苦手で、なんでも自分の中に抱えこんでしまうところがあるのですが、今回はその部分を隠さず、ありのまま役にのせて表現するところから始めてみようかなと考えています。
身体表現については、現場で振付家の意図を読み取りながら、かたちにしていこうと思います。ウィルさんの振付には、キャラクター一人ひとりがなぜそう動くのか、その明確な理由がかならず用意されています。僕は彼の頭の中にイメージされたフィリップを演じたい。自分の中で考えすぎないで、提示された動きをそのままやってみることから取り組んでいくつもりです。
役を演じる部分で、難しいと思っているところはありますか?
秋山 イノックが漁に出て帰ってこない間に、アニーのところに出かけては、彼女の子どもたちと仲良く過ごすシーンですね。アニーへの愛を抑え込み、家庭をサポートする立場として見守るフィリップの複雑な思いを演じるのに苦戦しています。バレエでも恋に悩む役を演じることはよくありますけれど、複雑な環境や事情を抱えている設定というのは要素がたくさんあって役の深みがあるぶん、考えることも多く演じるのが難しいです。

©Ballet Channel

公演を楽しみにしているファンに一言お願いします。
生方 今回の『イノック・アーデン』は今までにないバレエ、朗読、音楽という三要素が盛りだくさんに詰め込まれた作品になっています。クラシック・バレエがベースで朗読という言葉の補助もあるので、バレエを観たことのない方でも楽しんでいただけるのではないでしょうか。またウィルさんの才能豊かな振付、舞台装置や小道具も見どころの一つかと思っています。演じている僕らも毎回心を揺さぶられる舞台となっていますので、ぜひ劇場に足をお運びください。

公演情報

「イノック・アーデン

【日時】
2025年3月7日(金)〜16日(日)

【会場】
新国立劇場 小劇場(東京都渋谷区本町1‐1‐1 京王新線「初台」駅下車)

【出演】
田代万里生
中嶋朋子

秋山瑛
生方隆之介
南江祐生
(東京バレエ団)

演奏
櫻澤弘子

【スタッフ】
原作:アルフレッド・テニスン
作曲:リヒャルト・シュトラウス
翻訳:原田宗典
演出・振付:ウィル・タケット

企画製作:tsp Inc.

公式HP

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