ピケ・トゥールは、鑑賞者からは「1歩進んで片脚を軸に1回転」に見えます。正確に言えば、ピケ・トゥールは「ピケ」をしてから回る動きの総称であり、「ピケ・トゥールネ」または「ピケ・ターン」とも呼ばれています。
ピケとは、片方の脚を真っ直ぐ伸ばした後、その脚に体重を乗せて立つときに踵を床に付けず、ポアント(またはドゥミ・ポアント)で立つステップです。フランス語でピケは「刺す」という意味の語で、このステップは床をつま先で突き刺すようにも見えます。そしてピケ・トゥールは、床を突き刺した脚を軸脚にし、もう一方の脚はルティレ(またはスュル・ル・ク・ド・ピエ)にして回転する動きです。ピルエット等と同様に、右回りと左回り、アン・ドゥオール(外回し)とアン・ドゥダン(内回し)があり、1歩進んで2回転する技もあります。
シェネ(注1)は、鑑賞者からは「両脚を軸にくるくると回りながら移動」に見えます。でも実際には、左右の脚を交互に軸にして180度ずつ回るステップです。左脚を軸に半回転したら次は右脚を軸に同じ方向へ半回転し、さらに左脚を軸に半回転、また右脚を軸に半回転……、この反復で移動します。このとき左右のつま先が床に描く軌跡は、鎖状になります。フランス語でシェネは「鎖」という意味です。シェネにも右回りと左回りがありますが、アン・ドゥオールとアン・ドゥダンはありません。
■作品の中のピケ・トゥールとシェネ
古典バレエの作品には、ピケ・トゥールもシェネも、さりげなく頻繁に出現します。ここでは女性の主役の踊りで、2種類の回転を組み合わせて華麗に大きく舞台を移動する例を紹介しましょう。
典型的なのは、女性の主役のヴァリエーションで、舞台に大きく円弧を描いて移動するマネージュ(manège)や、舞台を斜め対角線上に進むディアゴナル(diagonale)のシークエンスです。多くの振付では、まずピケ・トゥールの連続で威勢よく前進し、その後シェネに切り替えて進んでから止まります。シェネのほうが拍あたりの回転数が多いので、「ピケ・トゥール→シェネ」は、回転を加速してフィニッシュするように見えます(注2)。
例えば『白鳥の湖』第3幕、オディールのヴァリエーションは、オディールが自分の魅力を様々な回転技でアピールする踊りですが、そのラストは舞台を大きく回るマネージュで、ピケ・トゥール・アン・ドゥダンの連続からシェネで締めくくるのが定番です。マネージュで描く大きな円と、ピケ・トゥール、シェネの小さな円が二重になって、華やかさが増幅されます。
同じようにピケ・トゥールとシェネでラストを飾る振付は数多くあり、『眠れる森の美女』第3幕のオーロラのヴァリエーション、『コッペリア』第1幕冒頭のスワニルダのヴァリエーション、『グラン・パ・クラシック』の女性ヴァリエーション、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』の女性ヴァリエーションなど、たくさんあります。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』のコーダの中盤には、女性がピケ・トゥールでマネージュした後、高速のシェネで上手袖へ入ってゆく印象的な場面もあります。
これらのマネージュでは、いずれもピケ・トゥール・アン・ドゥダンが用いられます。一方、ピケ・トゥール・アン・ドゥオールを用いる有名な振付もあります。
『白鳥の湖』第2幕、オデットのヴァリエーションのラストは、ピケ・トゥール・アン・ドゥオールが印象的です。チャイコフスキーの華麗なメロディに合わせて腕を力強く羽ばたかせながら、ピケ・トゥールとパ・ド・ブーレを繰り返し、舞台を上手奥から下手前へディアゴナルに進む振付です。最後はシェネで、ピケ・アラベスクのポーズでフィニッシュします。
『ラ・バヤデール』第2幕では、ガムザッティのヴァリエーションの中盤で、舞台を上手から下手へと横切る時、ピケ・トゥール・アン・ドゥオール、ストゥニュ、シェネを繰り返します。
(注1)シェネは、「トゥール・シェネ」または「トゥール・シェネ・デブレ」の省略形とも説明されます。またフランスでは単に「デブレ」と呼ばれることがあります。
(注2)実はダンサーにとって、ピケ・トゥールよりシェネの方がコントロールしやすい動きです。したがってダンサーからすると、ピケ・トゥールの勢いをシェネで収束させて止まる感覚になるそうです。