©︎Hidemi Seto
この時を、どれだけ待っていたことだろう。
今年1月末〜2月頭の『白鳥の湖』公演以来、約9ヵ月ものあいだ観ることができなかったKバレエカンパニーの舞台。
その久しぶりの公演が、本日(2020年10月15日)開幕する。
演目は熊川哲也版『海賊』。
この『海賊』は世界でいちばんおもしろいバージョンではないだろうか、と観るたびに思う。
煌くようなテクニックが散りばめられたダンスシーンが、怒涛のように押し寄せる。
そして何よりも「物語バレエ」としての魅力。ともすれば単純な冒険活劇で終わってしまいがちな『海賊』をドラマティックに練り上げ、最後には必ず涙がこぼれてしまう。
成田紗弥(メドーラ)、堀内將平(コンラッド)©︎Hidemi Seto
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開幕前夜の10月14日、東京・渋谷のオーチャードホールで、公開ゲネプロが行われた。
主役のメドーラは成田紗弥、コンラッドは堀内將平。アリ役は山本雅也、グルナーラ役は小林美奈が務めた(この組は初日10/15 14:00公演と10/17 12:30公演で観ることができる)。
成田紗弥(メドーラ)©︎Hidemi Seto
しばしば“妖精のような美しさ”と形容される成田は、透き通るような白い肌にブルーの衣裳がよく似合う。しかし今回驚いたのは、テクニカルな見せ場の力強さ。全幕中最大の舞踊的見せ場である第2幕のパ・ド・トロワのソロやコーダでの、くっきりとした回転技。これまでのどの役で感じた印象とも違う、新鮮な一面を見た。
堀内將平(コンラッド)©︎Hidemi Seto
勇しくも甘やかな魅力をもつ堀内のコンラッドは、メドーラを見つめる視線や彼女を支える仕草まで繊細に演じていてロマンティック。第1幕では心優しき海のリーダーという風情が素敵だったが、2幕に入り、海賊たちを従えて踊り始めた瞬間、そのカリスマ性が一気に噴き出す。滞空時間の長い跳躍、空中に鮮やかに彫り込まれる形のよいポーズに息をのんだ。
小林美奈(グルナーラ)©︎Hidemi Seto
小林美奈が踊るグルナーラも、このキャスト回の“見どころ”のひとつ。床に吸い付くようなポワントワーク。音楽をたっぷりと体に含ませるような、ジューシーな踊り。全身をすみずみまでドラマティックに使いきる動きの一つひとつが素晴らしかった。
山本雅也(アリ)©︎Hidemi Seto
そして何と言っても注目は、カンパニーの新プリンシパル、山本雅也の演じるアリである。2017年の上演時にもこの役を演じ、その時も彼ならではの颯爽とした役作りが光ったが、今回はひと味もふた味も違っている。力強さ。野性味。そしてミステリアスな翳り。鮮やかな跳躍や10回転にも届きそうなピルエットをさらりとこなし、フッと不敵な笑みを浮かべてみせる。その表情が、憎いほどかっこいい。
©︎Hidemi Seto
その他、ランケデム役・石橋奨也やビルバント役・西口直弥の細やかな芝居などもおもしろく、あっという間の2時間20分。
何度観ても衝撃的なラストシーンでは、今回もやはり、泣けてしまった。
©︎Hidemi Seto
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今回の上演にあたり、熊川哲也芸術監督は下記のコメントを発表している。
約半年におよぶ活動休止期間を経て、本公演『海賊』がKバレエ カンパニー再始動を飾ることになります。
社会全体が新しいスタイルへの転換を求められる今、劇場芸術の世界を生きる我々もまた、必要な変化に柔軟な発想をもって対応していかなければなりません。
2007年に初演したこの『海賊』は、僕がそれまでに手掛けたどの古典バレエよりもオリジナリティにあふれ、まさに他に類を見ない、「Kバレエの『海賊』」と誇れる作品と自負しています。
この作品が持つ力強さこそ、カンパニーが踏み出す新たな第一歩にふさわしく、かつてないほどのエネルギーと感動が劇場を満たすはずです。
そのひとときを共にする観客の皆さんにも、この舞台が明日へと向かう大きな活力をもたらすものとなることを願っています。
©︎中森真
公演情報
Kバレエ カンパニー『海賊』
※一部公演でオンラインライブ配信、映画館でのライブビューイングあり。詳細はこちら