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上野水香×町田樹×高岸直樹「Pas de Trois――バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲」【1】上野水香&高岸直樹インタビュー〜流れる美とスケール感、そしてあたたかな残り香を

阿部さや子 Sayako ABE

「Pas de Trois――バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲」リハーサルより 写真左から:町田樹、上野水香、高岸直樹 ©︎Hidemi Seto

2024年4月25日(木)〜29日(月・祝)、バレエの殿堂・東京文化会館で〈上野の森バレエホリデイ2024〉が開催されます。

2017年にスタートして以来、ゴールデンウィーク前半の大型バレエイベントとしてすっかり定着したこの催し。今年も東京バレエ団『白鳥の湖』公演やゲネプロ見学会、公開レッスン、大ホールホワイエにいろんなショップが軒を連ねる「バレエマルシェ」や手作り体験できる「ワークショップ・ランド」など……子どもから大人まで、バレエのビギナーからコアファンまで、みんなで楽しめるイベントが盛りだくさんに用意されています。

なかでも今回の目玉企画として話題を集めているのが、4月27日(土)・28日(日)に小ホールで上演される特別公演「Pas de Trois――バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲」
バレエダンサーの上野水香高岸直樹、そして元フィギュアスケーターの町田樹の3人が、舞台上で初共演。ショパン、シューベルト、ドビュッシー、リストの音楽に乗せて、高岸と町田の振付によるソロやパ・ド・ドゥやパ・ド・トロワが紡がれていく、スペシャルなダンス・ステージです。

開幕迫る4月中旬、東京バレエ団のスタジオで行われていた3人のリハーサルを取材。稽古終了後、上野水香さんと高岸直樹さんに話を聞きました。
たっぷりのリハーサル写真と共にお楽しみください!

町田樹さんにはメールでインタビューを行いました。記事はこちら

リハーサル写真撮影:瀬戸秀美

©︎Ballet Channel

🩰 ⛸️ 🩰 ⛸️ 🩰

今日のリハーサルは通し稽古でしたが、高岸さん振付の曲と町田さん振付の曲が交互に組まれた構成なのが、第一印象としてとてもおもしろく感じました。まず、高岸さんはご自身も振付をする立場から、町田さんの振付についてどんな印象を持っていますか?
高岸 町田くんは音楽に対する細やかな感性の持ち主です。本当に1音1音に感情を込めていくような、繊細な振付を作るんですよ。私は2015年から町田くんにバレエの指導をしてきました。だから私たちの作る振付には、どこか通じ合っているところがあるとも思います。もちろん、生み出されるものの質や内容は違うけれども。

上野 そう! 私はどちらの振付も踊りますけれど、たとえば町田さんの振付を踊っていても、時折「これは直樹さんの振付に通じている」って感じることがあるんです。あと、リハーサルの前にいつも3人でクラス・レッスンをするのですが、バーの最中にふと見ると、お二人の顔の付け方がピタリと同じでびっくりすることがあります(笑)。町田さんは9年間バレエを教わってきたなかで、直樹さんのダンスに対する感性を深く吸収したのだと思う。そして直樹さんも、フィギュアという異ジャンル出身の町田さんから触発されている部分があるんじゃないかな、と感じます。

上野が踊るソロ《献呈》のリハーサル風景より。町田がポワントで踊る作品を振付けるのは今回が初めてだそう ©︎Hidemi Seto

水香さんはある意味いちばん客観的に高岸さんと町田さんの持ち味の違いを体感しているのでしょうね。
上野 そうですね。まず町田さんの振付は、いまお話ししたようにバレエ的な部分では直樹さんに通じるものがありながら、そこにフィギュアスケーターとして養ってきた要素が色濃くドッキングしたような味わい。私が踊る《楽興の時》《献呈》という2つのソロはどちらも町田さんの振付なのですが、最初なかなか振りが覚えられなくて苦戦していたら、町田さんがみずから踊って見せてくださったんですね。それが、「ここはスケートリンクだったかしら?」と錯覚に陥るくらい、身体表現や空間の使い方のスケールが大きくて。フィギュアスケーターって、万単位の観客を収容するような会場でパフォーマンスしますよね。バレエの劇場も広いけれど、それよりさらに遠くまで伝わる表現とはこういうものかと、町田さんのお手本を見ながら感じました。今回の舞台は小ホールですけれど、町田さんの振付が持つ壮大な雰囲気というものを出して踊れたらいいなと思っています。

そして直樹さんには、これまで本当にたくさんの作品を振付けていただいてきました。彼はもう、私がどんな動きを好むか、私の個性や長所を引き出すにはどういう振付がベストなのか、すべてを理解してくださっている。本当に、全幅の信頼を寄せている振付家です。直樹さんの振付ならではの特徴だと思うのは、ムーヴメントに「角(かど)」がないこと。すべてのステップが美しく流れていくというか、踊っていて「うっ!」とつまずく瞬間がないんです。だから本当に心地がいい。そこが大きな魅力だと思います。

高岸さんも、町田さん振付のソロ「ノクターン」を踊りますね。言葉にできず、心にも納めきれない感情を踊っているようで、観ているとこちらまで心身が熱くなりました。

©︎Hidemi Seto

町田が振付け、高岸が踊るソロ《ノクターン》。使用される楽曲はショパンのノクターン(夜想曲)のなかでもとりわけ有名な第2番 変ホ長調 作品9-2。詩情ある甘美な旋律に、成熟したダンサーにしか表現し得ない陰影のあるムーヴメントが刻まれていく ©︎Hidemi Seto

高岸 そうですね。今日は少し控えめに踊りましたが、実際の振付はとてもハードなんですよ。

上野 町田さんの作品って、踊っているとすごく息が上がるんです。呼吸できる瞬間があまりないというか、ちょっとバランシンの作品みたいなところがある。彼が別のインタビューで「音の粒を拾う」というような表現でお話しされていましたけれど、まさにそういう感覚ですね。音をひと粒もこぼしたくない、流したくないという思いが、振付に強く表れていると思います。

そしてオープニングの《エオリアン・ハープ》は高岸さんの振付。まさに3人のステップがそよ風のように広がって、舞台いっぱいにダンスの花が咲いていくような印象を受けました。
上野 爽やかで素敵なオープニングですよね。サラサラと流れて、最後に心地よい後味が残る、みたいな。私と町田さんの持ち味を尊重して振付けてくださっているのも感じます。

高岸 そう言ってもらえて嬉しい。やはり水香さんと町田くんそれぞれの個性をよく知っているから、それはぜひ活かしたかった。

リハーサル前のバー・レッスンの時に、町田さんがアティテュード・デリエールのポーズでバーから手を離し、そのまま曲が終わるまで微動だにせずバランスをキープして、高岸さんと水香さんが「ブラボー!」と声をかける場面がありました。まさにそのポーズが、《エオリアン・ハープ》のなかに振付として挿入されていますね。
上野 町田さんのバランス力、本当にすごいでしょう?! 私、初めて一緒に稽古をした時に、心底感動したんです。それで直樹さんに「ぜひ町田さんの踊りの中に、あのアティテュードのバランスを入れてほしい」ってお願いして(笑)。

高岸 そのとおりに入れました(笑)。

上野 私もバランスは得意なほうですけれど、やはりポーズが安定するまでには少し軸を探すんです。でも彼は探さない。ポジションを作ると同時にバランスが取れてしまう。

高岸 あんなに早くバランスに入れる人はいないですよね。私も町田くんに負けじと、今日のレッスンでは素早くバーから手を離してバランスを保てるよう努めました。お腹でバーに寄りかかっていただけですが(笑)。

リハーサル前には3人で一緒にクラス・レッスン。見事なバランスを見せる町田(写真右)に「ブラボー!」を送る笑顔の高岸。まさにこのポーズが「Pas de Trois」の振付に…… ©︎Hidemi Seto

(笑)。その町田さんと高岸さんとで踊るデュエット《プレリュード》も、ファンには嬉しい見どころです。この曲の振付は高岸さんですね。
高岸 今回の舞台は、町田くんをサポートしているAtelier t.e.r.m(アトリエ・ターム)さんというチームが監修・構成を手がけてくださっていて、このデュエットもその台本をインスピレーションにして作りました。音楽はドビュッシーの「ベルガマスク組曲」から。生命が誕生し、そこから人生が始まって、停滞の時も訪れるけれど、それでも未来に向かって突き進んでいく……そんなイメージで振付けています。

ドビュッシーの楽曲を用いた《プレリュード》。二人の身体的な個性の違いと男性同士ならではのパワーを活かしたパ・ド・ドゥ ©︎Hidemi Seto

高岸さんが町田さんをダイナミックにリフトするなど力強い場面があるかと思えば、どこか脆さを感じる優美な場面もあり。男性同士のパ・ド・ドゥというのも非常に魅力的ですね。
高岸 私は東京バレエ団時代にベジャールやノイマイヤー等とよく一緒に仕事をしていましたたので、男性同士のパ・ド・ドゥに関しては、彼らのエッセンスが何かしら自分の中に残っているような気がします。

上野 そう、側(はた)で観ていても、どこかベジャールやノイマイヤーとリンクしているようなニュアンスを感じる瞬間がある。

高岸 思い出、というのでしょうか。振付の最中に、彼らと仕事を見ながら自分がグッときた場面などが、フラッシュバックのようにポンと脳裏に浮かぶことはありましたね。

こんな笑顔がこぼれる瞬間も ©︎Hidemi Seto

上野水香さん、町田樹さん、高岸直樹さんという個性のまったく異なる3人ですが、共通点があるとすると?
高岸 今回あらためて感じたのは、「水香さんも町田くんも、こんなにも強かったのか」ということです。いろいろなダンサーを見たり教えたりしてきて思うのは、やはり強さが大切だということ。自分に向き合っていく強さ、姿勢。二人にはその強さがあるから、イコール集中力があり、根性があり、妥協なく追求し続ける情熱もある。アーティストはそこで決まると私は思う。

上野 誰よりも強い直樹さんがそんなふうに言ってくださるのですが、私自身は今でもつねに「自分には強さが足りない」と思っているんです。いつも自信がなくて不安。だから「もっと頑張らなくちゃ、もっと努力しなくちゃ」って思い続けている。それが「強さ」に見えるのかもしれません。

そうした水香さんの素顔やバレリーナとして生きてきた道のりがしみじみ伝わってくるのが、ラストのソロ《献呈》ですね。
上野 踊り続けてきた人生、その途中では苛立ったり、悩んだり、もがいたりもしたけれど、それらすべてを引っくるめて、最後にはありのままの私で生きていく。そんなストーリーが見える作品です。たった4分ほどのソロですけれど、私の人生が凝縮されている。とても濃密なドラマを感じていただけると思います。

上野のソロ《献呈》は、ポワントを引きずるようにして、一歩一歩、舞台の上を歩いてくるところから始まる ©︎Hidemi Seto

音楽はシューマン作曲、リスト編曲「ミルテの花」作品25-1で、反田恭平が演奏する音源を使用。「反田さんの演奏は音が強い。でもその強さがこの舞台の水香さんにはきっと合う」と、監修・構成のAtelier t.e.r.m ©︎Hidemi Seto

最後に、舞台を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。
高岸 私自身、子どもの頃に観たバレエや舞台が、いまだに心の中に鮮明に残っているんですよ。この「Pas de Trois」がみなさんにとって一生の思い出になるように、舞台を作り上げていきたいと思います。

上野 本当に気心の知れている3人が、プラスのエネルギーを交換し合い、リスペクトし合って、ひとつのステージを作り上げようとしています。きっと良い舞台になると思います。そして最後には「人間っていいな」と思えるような、あたたかい残り香をみなさまに感じていただけたら。劇場でお待ちしています。〈上野の森バレエホリデイ〉もぜひお楽しみください!

©︎Ballet Channel

イベント&公演情報

〈上野の森バレエホリデイ 2024

【開催期間】
2024年4月26日(金)~29日(月祝)

【会場】
東京文化会館 全館

【詳細】
上野の森バレエホリデイ2024 公式サイト

「Pas de Trois――バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲」

【日時】
2024年
4月27日(土)13:45~14:55/18:30~19:40
4月28日(日)13:15~14:25

【会場】
東京文化会館 小ホール

【詳細】
上野の森バレエホリデイ2024 公演ページ

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