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【受章インタビュー】上野水香さん紫綬褒章受章!「自分はバレエのために何ができるのか。新たな気持ちと感謝を胸に、ベストを尽くして踊りたい」

阿部さや子 Sayako ABE

令和5年秋の褒章で紫綬褒章を受章した、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香さん ©︎Toru Hasumi

東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香さんが、令和5年秋の褒章において、学術や研究、芸術、スポーツなどの分野で活躍した人に贈られる紫綬褒章を受章。その伝達式が、2023年11月13日(月)に都内で行われました。

伝達式終了後の会場で、上野水香さんにお話を聞きました。

紫綬褒章の色に合わせて選んだという着物がとても似合っていた上野水香さん ©︎Toru Hasumi

上野水香さん、紫綬褒章受章おめでとうございます! 受章が決まったと知った時は「信じられなくて“夢なのかな、覚めるのかな”と思った」とのことでしたが、いま伝達式が終わっての感想は?
上野 ありがとうございます。実際にこの褒章を手渡していただいて、「現実だったんだ」とようやく思えた気がします。私はいつも「こんな自分が踊っていていいのかな?」という葛藤を抱えていて、「もうバレエをやめよう」と思ったことも何度もあります。また、自分の踊りをどんなにお褒めいただいても、「本当にあれでよかったのかな……」という不安がつねにつきまとう。バレエとはそういう道でもあります。ですから今回の受章は「踊っていていいんだよ。この道でよかったんだよ」と背中を押していただけたような、そんな気持ちです。
5歳からバレエを始めて、ちょうど40年。このタイミングでの受章についてはどのように受け止めていますか?
上野 本当に、感謝しかありません。じつを言うと、私は来年3月まで決まっている公演を踊りきったら、もう現役を引退しよう……と思い始めていました。その先はもう「舞台に立ってほしい」と求められることもないだろうし、精神的にもそろそろ限界が近づいている。ならばこのあたりでダンサーとしてのキャリアを終わらせて、次の道を探すのもいいかもしれないと、ずっとずっと悩み続けていたんです。今回の受章の一報をいただいたのはまさにそんなタイミングでしたから、もう胸いっぱいになってしまって、しばらく涙が止まりませんでした。そしてここまでの40年を振り返れば、私のそばにはいつだって、応援してくれる人、信じてくれる人、励ましてくれる人、ファンの方々……私を支えてくださるみなさんがいてくださいました。いまはとにかく、そうしたみなさんに心からの感謝を伝えたいです。

同じく紫綬褒章を受章した、歌人の俵万智さんと。俵さんは褒章受章者代表挨拶にも登壇。「私は歌詠みですので、一首詠んでこの良き日をみなさまと共に寿ぎたいと思います」と、万葉集にもちなんだ以下の歌で挨拶を締めくくりました。
「晴れの日の 葉っぱは願う この国の 未来の森に いやしけ吉事(よごと)」©︎Toru Hasumi

今回の受章を受けて、これからどのように歩んでいきたいと思いますか?
上野 バレエダンサーである以上、明日どうなるかはわからない。そういう世界だからこそ、これまでと変わることなく、目の前にある舞台を一つひとつ大事にしていきたいと思っています。そして来年は東京バレエ団の創立60周年という記念の年であり、私が東京バレエ団に在籍してちょうど20年という大切な年でもあるんです。ですから来年1年間は、できればダンサーとして、バレエ団と一緒に特別な1年を盛り上げていけたら嬉しい。それがいまの願いです。

私がいつまで踊れるかは自分の身体との相談ですから、先は読めません。とにかく自分のベストを尽くす。そしてその時どきでバレエ界が私に何を求めているのかをしっかりキャッチしながら、やっていきたいと思っています。自分の踊りをみなさんが喜んでくださり、自分はバレエの役に立てていると思えることが、イコール私自身にとっての救いであり、存在理由でもあります。

自分はバレエのために何ができるのか。それが「踊ること」ではなくなる日が来たら、私はバレエ界に新たな「スター」が生まれる手助けをしたいです。ありがたいことに、いま多くの方が私のことをスターだと言ってくださいます。でも今後「この人はきっと私以上に輝ける」と思えるくらい可能性ゆたかなダンサーを見つけたら、惜しみなく力になりたいですし、いろいろなチャンスを与えてあげたい。突出した魅力をもつ真のスターが出てきたら、日本のバレエ界はものすごく盛り上がるのではないでしょうか。いまはまだ自分のことでいっぱいいっぱいですけれど、そんな夢も持っています。

紫綬褒章を胸に ©︎Toru Hasumi

水香さんがいま背中で見せていることが、次世代のダンサーたちに夢や希望を与えていると思います。まずはこの度の紫綬褒章受章記念となる来年3月の東京バレエ団公演〈上野水香オン・ステージ〉、どんな舞台にしたいですか?
上野 〈上野水香オン・ステージ〉は今年の2月から6月にかけて一度全国ツアーをさせていただきましたが、その時に、「ああ、私はもうこれ以上ない景色を見せてもらえた」と思いました。踊り終えたとたん、お客様がバッ!と一斉に立ち上がって、本当に喜んでくださった。観客のみなさまの喜びがそのまま私の喜びになる……そんな景色を見ることはもう二度とないだろうと思いました。だからこそ、もう現役人生を終わりにしようと考えたんです。でも、みなさまが「もう一度〈オン・ステージ〉を観たい」と求めてくださって、こうして褒章という励みもいただいて、自分が踊る意味をあらためて与えていただいたような気がしています。1公演1公演、真心を込めて、必ず喜んでいただける舞台にしたいと思います。
東京・浜松・横須賀の3都市で上演されるのもファンには嬉しいプレゼントですね。
上野 私もすごく嬉しいです! 演目については、まずベジャール振付『ボレロ』は絶対なので(笑)、全公演で踊ります。そして東京公演では、つい先日発表されたとおり、『カルメン』を踊ることになりました。これは2年前の東京バレエ団公演で踊った時に非常に手応えを感じたのと同時に、「この役でもっと表現したいことがある」とも思った作品。奔放で、強くて、ひたすらまっすぐなカルメンを演じることが、本当に楽しかった。だからもう一度カルメンを生きてみたい、こういう演劇性のある作品を踊る私もお客様に観ていただきたいと思い、プログラムに入れることにしました。

いっぽう浜松と横須賀の公演でスペシャルなのは、厚地康雄さんと踊る『白鳥の湖』第2幕です。厚地さんと私の二人だけで踊ることはこれまでにもありましたけれど、厚地さんが東京バレエ団のダンサーたちと共演するのは、今回が初めてなんですよ。白鳥たちの群舞やロットバルトもいるなかで、彼と一緒にドラマを作れるのがすごく楽しみです。

最後に、ファンのみなさんにメッセージを。
上野 今日の東京はお天気もよくて、晴れ晴れとした気持ちでこの日を迎えることができました。みなさまへの心からの感謝を胸に、あらためて気持ちを引き締めて、この褒章にふさわしい芸術家であれるように精進します。私には、まだまだ足りないことがたくさんあります。これからもっといい踊りをお見せできるように、頑張っていきます。

©︎Toru Hasumi

★今回の紫綬褒章受章を記念して、2024年3月に東京バレエ団公演〈上野水香オン・ステージ〉が東京、浜松、横須賀にて開催決定。
詳細は東京バレエ団公式サイトにて。

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