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【チケットプレゼント付き】映画「ダンサー そして私たちは踊った」鑑賞録

若松圭子 Keiko WAKAMATSU

本年度アカデミー賞のスウェーデン代表作品
『ダンサー そして私たちは踊った』
昨年のスウェーデン・アカデミー賞(ゴールデン・ビートル賞)で、作品賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞と最多4部門を受賞という話題作だ。

設定は現代のジョージア(旧ソ連・東欧のグルジア)。国立舞踊団で踊るひとりの青年の青春と愛、葛藤を描いている。
ジョージアでのプレミア上映の際は、5,000枚のチケットがわずか13分で完売したほどの注目作。しかしその上映当日には、劇場前で中止を求める抗議行動が起こったという。

ジョージアの人々をそこまで動かした作品の魅力はどこにあるのか。
そしてタイトルにある「踊り」がどういう姿で作品に顔を出すのか。

日本での劇場公開に先駆けて行われたプレス向け試写会に参加してきた。

※記事の最後にこの映画の予告編動画がありますので、併せてお楽しみください
資料提供:ファインフィルムズ

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舞台となるのはジョージア国立舞踊団。ダンサー達が常に求められるのは「伝統的な」踊りだ。それは全て「男らしさ」「女らしさ」という枠に、きちんと収められている。

ここに所属する主人公メラブ(レヴァン・ゲルバヒアニ)は、技術力はあるが男性ダンサーとしては身体の線が細い。伝統舞踊を踊るにふさわしい力強さのなさを、日々指摘されている。
彼の生活は裕福とはいえない。元同舞踊団のダンサーだった父親は職を失って市場へ出稼ぎに。兄ダヴィドは同じ舞踊団だが、夜遊びや飲酒で稽古も休みがち。幼馴染で舞踊団の女性ダンサー、マリとは公私ともにパートナーだ。

そんなある日、異質で魅力的な男性ダンサー、イラクリ(バチ・ヴァリシュヴィリ)が舞踊団に入団してくる。
力強い踊りと、そのカリスマ性にライバル心を抱いたメラブは、やがて良きライバル同士に。正団員の欠員オーディションを受けるために、2人で自主稽古を始める。
ライバル心が友情に変わり、やがて誰よりも気になる存在という意識がメラブを変えていく。そして、その気持ちをイラクリと確かめ合う。ジョージアはキリスト教(ジョージア正教)が主なので、男性同士の恋愛は禁止されている。ましてや舞踊団という「伝統文化を守る」場では、その存在自体が認められない。

メラブは、イラクリへの恋心と社会の偏見との間で、自分を保とうとしながら傷ついていく。

***

素晴らしかったのは、メラブの恋心の演技がとても繊細でリアルだった点。

その姿にふと「ロミオとジュリエット」のジュリエットを思い出した。
こちらの思いや戸惑いが相手に伝わった時のドキドキ、受け入れられた途端にほとばしる恋心、周りを顧みることも出来なくなるほどまっすぐな愛……「相手が同性である」という部分を除けば、メラブの恋はそれと変わらないものに感じた。

ロミオとジュリエットの恋愛の壁となるのが保守的な両家の確執だとしたら、彼らのそれはこの国に逆らう勇気をもたねばならないということ。LGBTという問題を取り上げてはいるが、かまえる必要はない。レヴァン演ずるメラブの切ない恋愛物語は、きっと誰もがスムーズに感情移入できると思う。中盤、突然姿を消したイラクリに不安を覚えたメラブが、既読のつかないSNSを何度も見返す姿は、恋したことのある少女ならだれでも共感できるのではないだろうか。更に加筆するなら、メラブを取り巻く人々の、愛情深く人間らしい描写が良い。

病気の母親を安心させるために異性の恋人と婚約した、と申し訳なさげに別れ話を告げるイラクリ。実は彼の方が同性との愛に後ろめたさを覚え、保守的ですらあったという皮肉。
メラブを同性愛者だと噂した団員たちを殴った兄ダヴィド。それが真実だと知っても姿勢を変えない、弟への兄弟愛。
全てを受け入れ「今まで分かってあげられていなくてごめんね」とメラブを優しくハグする、マリの深い友情。
「お前にはダンサーの才能がある。お前はこの国にいてはいけない。ここを出なくちゃダメだ」という、国の現状を噛みしめつつ息子の可能性を信じる父の想い。

彼らから与えられた愛を胸に抱き、メラブはオーディションで「自分らしく」踊る。
そのシーンにメラブのセリフは一切ない。
しかし彼の肉体のしなり、保守的な演出家へ真っ直ぐに向けられる視線から、彼のセリフが聞こえてくるような錯覚を覚える。伴奏する民族音楽団もそれに突き動かされるように、演出家の静止を聞かず、どこまでもメラブのダンスと共鳴していく。

これが僕だ。

文字に書いただけで、あっという間に典型的なメッセージになってしまうのというのに、この肉体の説得力はどうだろう。
ダンサーは個々の肉体で、ダンスで語るのだと改めて感じる作品だった。

メラブ役のレヴァン・ゲルバヒアニはジョージア在住のコンテンポラリーダンサー。以前はジョージア国立バレエでバレエを専攻していた。監督のレヴァン・アキン(彼はジョージア系スウェーデン人)がインスタグラムでコンテンポラリーを踊る彼の姿を見つけてスカウトし、これがデビュー作品となった。
資料によると、レヴァンはこの出演依頼に対し「5回ほど断った」のだそうだ。
ジョージアに住む彼にとって、本作に出演すること、メラブを演じることは大変な勇気だったと思う。しかし、ナチュラル且つ繊細な演技と、コンテンポラリーダンサーとしての魅力を詰め込んだラストシーンは圧巻。この作品でスウェーデン・アカデミー賞主演男優賞を受賞している。

上映情報

『ダンサー そして私たちは踊った』
●脚本・監督:レヴァン・アキン
●2月21日(金)公開
●上映館:シネマート新宿/ヒューマントラストシネマ有楽町 他)
上演館一覧 https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=dance
●公式サイト http://www.finefilms.co.jp/dance/

 

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