2023年9月23日(土)・24日(日)、バレエ『えんとつ町のプペル』が東京・新宿文化センター大ホールで上演されます。
原作はもちろん発刊以来大きな反響を呼んだ絵本「えんとつ町のプペル」。振付を宝満直也が手がけ、主役のプペル&ブルーノを風間自然、ルビッチを竹田仁美(元NBAバレエ団プリンシパル)が演じます。その他の主要キャストとしてスコップ役に八幡顕光(元新国立劇場バレエ団プリンシパル)、レベッカ役に白石あゆ美(元K-BALLET COMPANYプリンシパル)などの実力派も揃い、フルオーケストラの生演奏で上演されます(指揮はバレエ指揮者の冨田実里)。
- 【STORY】
- 厚い煙に覆われ、空を見上げることを忘れた”えんとつ町”の住人は、青い空も煌めく星も知りません。
そんな中、この街でただ一人、”星”を語っていたブルーノは星を見るために海に出て、帰らぬ人に。
その息子・ルビッチは、父のことばを胸に“星を信じ続けていました。ハロウィンの夜、ゴミから生まれたゴミ人間・プペルが現れ、二人は”友達”に。
しかし、ルビッチがプペルに”星”の話をしたことをきっかけに町のみんなに嘘つきと後ろ指をさされ、のけものにされ、塞ぎ込んでしまいます。
8月末、プレス向けに公開された通し稽古のもようを動画でレポート。また、リハーサル終了後に制作総指揮・演出の関巴瑠花(せき・はるか)さんと振付の宝満直也(ほうまん・なおや)さんにお話を聞きました。出演者たちの写真&コメントも合わせてお楽しみください。
通し稽古後に主要キャストのみなさんをパチリ! 写真左から:八幡顕光さん(スコップ)、竹田仁美さん(ルビッチ)、風間自然さん(プペル)、白石あゆ美さん(レベッカ) ©️Ballet Channel
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Interview 1
関巴瑠花(制作総指揮・演出)
“「あきらめないことの大切さ」を伝えたい”
関巴瑠花さん。写真奥はレベッカ役の白石あゆ美さん ©️Ballet Channel
- バレエ『えんとつ町のプペル』が間もなく開幕しますね。1年の延期を経て、ついに初演(*)にこぎ着けようとしている今の率直な気持ちは?
- 関 奇跡だな、と思います。すべての始まりは、息子に絵本を読み聞かせようと思って何気なく購入した「えんとつ町のプペル」に私自身が感動して、「これをバレエにして、自分の教室の発表会で子どもたちに踊らせてあげたい」と思ったこと。まずはきちんと原作の使用許可を取ろうと動き始めたら、次々と協力者が現れて、気持ちを乗せてくださる人たちもどんどん増えていって……素晴らしい音楽に出会い、美しい舞台装置と衣裳も出来上がりました。当初はここまでスケールの大きな作品になるなんて想像もしていなくて、何もかも私ひとりでは絶対にできなかったことです。この物語の主人公であるルビッチにプペルやスコップや街灯といった仲間たちがいたように、私のまわりにも、どんな時も信じてくれる人や支えてくれる人がいてくれました。今は「どうかたくさんの方に観ていただけますように。そして無事に幕が下りますように」と願うばかりです。
*バレエスタジオの生徒たちによる「発表会版」は2022年7月に初演。今回は、演出を関巴瑠花、振付を宝満直也が手がけ、プロフェッショナルのダンサーたちが演じる「プロ版」の初演となる
- 先ほど通し稽古を見学しましたが、クラシック・バレエの美しいパ・ド・ドゥや群舞もあれば、空気感がガラリと変わるようなコンテンポラリー・ダンスもあり、各キャラクターが踊る印象的なソロの数々もあり。たっぷりのダンスで物語が明快に運ばれていき、とても楽しめました。
- 関 ありがとうございます。それは振付をしてくださった宝満直也さんのおかげです。バレエって通常は演出と振付を同じ人が手がけることが多くて、実際その境目はあいまいなところがありますけれど、今回は私が演出として全体の基本的な構成を決めて、振付はすべて宝満さんにお願いしました。宝満さんは物語がしっかりつながるように場面を組み立てていく手腕も素晴らしいですし、リハーサルの現場でもみんなを引っ張ってくださっています。
通し稽古を見るスタッフのみなさん。写真左奥が振付の宝満直也さん ©️Ballet Channel
ゴミ人間のプペル(風間自然)とルビッチ(竹田仁美) ©️Ballet Channel
子役のみなさんも大活躍! ©️Ballet Channel
- その振付を踊るプペル役の風間自然さん、ルビッチ役の竹田仁美さん、スコップ役の八幡顕光さん、レベッカ役の白石あゆ美さんらメインキャスト陣の実力は言わずもがなですが、アンサンブルのダンサーたちの踊りも単に「きれいに揃っている」というより「一人ひとりが楽しんで踊っている」という印象。とくに最後のクライマックスシーンの群舞にはぐっとくるものがありました。
- 関 ありがたいことに、主役陣のプロフェッショナルな踊りやリハーサルに臨む姿勢が、若いダンサーたちや子どもたちをぐんぐん牽引してくれているように感じます。そしておっしゃる通り、群舞のダンサーたちの熱量には凄まじいものがあります! オーディションの時からすごい熱気で、スタジオのガラスがくもるほどだったんですよ。4月にリハーサルが始まってからもう5〜6ヵ月ほどになりますが、彼ら・彼女らのエネルギーや集中力が落ちたり切れたりしたことはいちどもありません。本当にみなさんが一生懸命。ここから本番まで、さらに良くなっていくのは間違いないと思います。
ルビッチ役の竹田仁美さん。「各役のみなさんと本気で演技をぶつけ合えるのが嬉しい。このバレエは100人観れば100通りの評価があっていいと思う。お客様にはぜひ劇場で、私たちと一緒に笑って泣いて、感情をあらわにしながら観ていただけたら嬉しいです」(竹田さん) ©️Ballet Channel
スコップ役の八幡顕光さんは、テクニック満載のソロあり、子どもたちとの楽しいダンスありで、客席を沸かせること間違いなし。「子どもたちのエネルギーがすごくて、彼らとの場面はパッと明るくなる。プペルバレエは音楽が素晴らしい。僕もその音に身を委ねて踊りたいと思います」(八幡さん) ©️Ballet Channel
- いっぽうで、本作は2022年秋初演の予定だったところが1年延期になるなど、すべてが順風満帆というわけではなかったかと思います。ここにたどり着くまでに最も困難だったことは何でしょうか?
- 関 先ほどお話ししたように、最初はただ「自分の生徒たちのためにプペルバレエを作りたい」という気持ちでスタートしたものですから、思いがけず多くの方の共感が集まりプロジェクトがみるみる大きくなっていくなかで、当初の私にはそれに耐え得るだけの力や心の強さがありませんでした。中心にいる私がその状態でしたので、当然ながらチームとしての強度も足りず……とくに大きかった出来事は、きっとご存じの方も多いと思いますが、昨年5月にSNSで炎上したことです。自分の発信した言葉がどんどん大きな炎になり、それでも最初は自分自身を強く保とうとしていたのですが、しだいに周りのみなさんの心が揺れ始めてしまった。その様子を目の当たりにしていると、だんだん、自分が悪いことをしているような気持ちになっていきました。これは「夢をあきらめないで行動したら、その先にみんなの信じる未来がある」という作品で、そのメッセージを子どもたちに伝えたくてバレエを作り始めたけれど、そういう私の取り組み自体が悪なんだろうか……と。
- まさにその炎上のさなかだった昨年5月にも、私は関さんにインタビュー取材をしました。その際に「賛否両論は覚悟していたけれども、しだいに自分の家族のことまで調べられたり情報を晒されたりし始めて、『もしも教室の生徒たちにまで危害が加えられるようなことがあったら……』と思うと怖くなってしまった」というお話を伺い、胸が痛みました。その後ほどなくして、公演は「延期」に。「これはもしかしたら『中止』になるのかも?」と想像していたのですが、関さんがあきらめることなくもう一度仕切り直して立ち上がった、そのいちばんの支えになったものは何でしょうか?
- 関 もしも私が、このプペルバレエを自分のために作ろうとしたのだったら、もうとっくにやめていたと思います。でも実際には、一緒に制作に携わってくれている人たちや、オーディションに集まってくれたたくさんのダンサーたちなど、この作品はたくさんの人の思いを背負っています。それに私は子どもたちに「あきらめないことの大切さ」を伝えたくて作っているのに、その張本人があきらめるわけにはいかない、そんな背中は見せられない、と。ですから支えになったものは何かといえば、それは一緒に歩んでくれる仲間たちや子ども(生徒)たちの存在ですね。
- 原作がベストセラー絵本ですから、公演当日にはバレエファンだけでなく原作ファンもたくさん観に来そうですね?
- 関 実際、「初めてバレエを観に行きます!」といった声も、すでにたくさんいただいているんですよ。絵本が原作ですから、バレエを知らない方にとっても親しみやすい内容であるのはもちろんのこと、バレエに詳しい方でも絶対に楽しんでいただける素晴らしい作品ができたと、自信を持って言えます。ぜひたくさんの方に観にきていただけたら嬉しいです。
©️Ballet Channel
Interview 2
宝満直也(振付)
“理屈抜きで心が満たされる。それがバレエだと思う”
宝満直也さん ©️Ballet Channel
- 通し稽古を拝見しましたが、クラシック・バレエ的な振付もあればコンテンポラリー・ダンス的なものもあり、踊り手もプロのダンサーから子どもたちまでいますね。これだけ多種多様な振付を作る上で、とくにおもしろかったことや大変だったことは?
- 宝満 振付を作ること自体については、大変だと感じたことはまったくありません。僕はもともと子どもたちに振付けるのも大好きですし、すべての振付がおもしろかったです。強いていうならば、これは様々なバックグラウンドを持つダンサーたちが参加してくれているプロジェクトですから、バレエ団のように常に全員が揃った状態でリハーサルすることはできない、という点でしょうか。「今日はこことここに人がいないけど、いたらこう見えるはず」とイメージしながら振付を作ってきて、実際にその位置にダンサーが入ってみると、「こういうふうに見えるのか!」と気づくことはたくさんありました。そういう面が少し難しかったかもしれませんが、そのぶん想像力は鍛えられたと思います(笑)。
- 子役のみなさんの踊り、本当に生き生きしていて可愛らしいです。
- 宝満 すごく優秀な子どもたちなんですよ。公演本番まであと1ヵ月くらいあるのに(編集部注:取材は8月29日)、現時点でもう90点くらいはあげられる出来栄えです。
子役のみなさん、表現力はもちろん舞台度胸もすごそうです…… ©️Ballet Channel
- 以前インタビューをした際、宝満さんは「自分はあまり事前に振付を決め込まず、現場で目の前のダンサーを見ながら動きを作っていくタイプだ」と話していました。今回のクリエイションもそうでしたか?
- 宝満 はい、今回も大まかな流れだけを事前に考えておいて、実際の動きは稽古に入って、ダンサーたちを見ながら作っていきました。ですからプペルが風間自然さんでなければあのような振りにはならなかったし、星たちがあのメンバーでなければ、ぜんぜん違う群舞になっていたと思います。
宝満さんが「彼はいつもこちらの想像を超えた動きで反応してくれる。日本の枠にとどまらない身体性と精神性を持つダンサー」と語る、プペル役の風間自然さん。記者からの「“ゴミ人間”であるプペルを、どういうキャラクター像として捉えていますか?」の質問に、「何なんでしょうね……で、いいんでしょうね。何でも、言葉にしてしまった瞬間に壊れていく。例えば絵を見て“美しい”と言った瞬間に、それは“美しい絵”でしかなくなってしまう、というように。僕は言葉にしたくないし、終わりを作りたくない。舞台を観たお客様が、それぞれの中でこの役を完成させてくれたら」(風間さん) ©️Ballet Channel
こちらはレベッカ役の白石あゆ美さん。「出てきた瞬間にその場の中心になってしまう、女帝のような存在感。自分なりに役を作り、その中に深く入り込んで演じてくださるので、振付をしていておもしろい」(宝満さん)。「レベッカはルビッチをどん底まで突き落とす役ですが(笑)、それでこそ結末に向かって物語が生きてくる。レベッカはたぶん、いじめることでしか自分の感情をぶつけられない。そういう寂しさも抱えているのだと思います」(白石さん) ©️Ballet Channel
- この『えんとつ町のプペル』を振付けるうえで意識したことは?
- 宝満 この作品は原作が有名な絵本で、すでに映画やミュージカル等も作られているし、バレエ用の脚本も用意されています。その脚本は制作陣やダンサー全員が共有しているのですが、僕はあえて深く読み込んでいません。
なぜかというと、制作陣はプペルの設定の裏の背景まで知り尽くしていて、バレエに落とし込んだ時に生まれる齟齬や矛盾など、ちょっとしたところに気づけなかったり見落としてしまったりする可能性があると思ったので。もちろん、実際にはそんな甘い目で創作に携わっている人は誰もいなくて、みなさん厳しく突き詰めながら作っています。それでも、僕はあえて「知らない状態」でいることで、「なぜここはこうなっているの?」「普通に考えたらこういう流れにはならないはずでは?」といった違和感に、敏感に気づける客観性を保ちたかった。『プペル』を知っているから楽しめる、みたいなバレエには絶対にしたくなくて、むしろ原作をまったく知らなくても、バレエの中で物語やキャラクターを楽しんでいける作品にしたいと考えました。
- このプペルバレエは音楽の美しさも非常に大きな魅力だと思いますが、宝満さんがとりわけ惹かれた楽曲があれば教えてください。
- 宝満 僕は、ラストシーンの星の音楽が大好きです。今日の通し稽古で、20人のコール・ド・バレエがその曲で踊ったのを観た時、「この理由のない美しさがバレエなんだ」とあらためて感じました。理屈なんて関係なしに心が満たされるのがバレエという芸術であり、それを実感させてくれるのがラストのあの曲だと思います。
その美しい音楽とクラシック・チュチュを着たダンサーたちに囲まれた、プペルとルビッチ。「綺麗なシーンを、綺麗な要素だけでまとめなくても成立する。それがプペルバレエの強みだと思う」(宝満さん) ©️Ballet Channel
公演情報
バレエ『えんとつ町のプペル』
【公演日程】
2023年
9月23日(土)14:00
9月23日(土)18:00
9月24日(日)14:00
※上演時間:2時間(休憩含む)
【会場】
新宿文化センター 大ホール
【スタッフ】
原作・脚本:西野亮廣
制作総指揮・演出:関巴瑠花
振付:宝満直也
音楽監督・指揮:冨田実里
管弦楽団:ロイヤルチェンバーオーケストラ
【主なキャスト】
プペル:風間自然
ルビッチ:竹田仁美
スコップ:八幡顕光
レベッカ:白石あゆ美
キャシー:勅使河原綾乃(NBAバレエ団)
ルイーズ:土田明日香(バレエシャンブルウエスト)
街灯:岡博美(東京シティバレエ団)・盆子原美奈 他
えんとつ掃除屋:牧村直樹(谷桃子バレエ団)・岡田晃明(東京シティバレエ団) 他