パリ・オペラ座バレエの舞台を映画館で堪能できる「パリ・オペラ座 IN シネマ 2026」。去る1月に上映されたルドルフ・ヌレエフ振付『くるみ割り人形』に続き、2026年3月13日(金)より1週間限定で、アンジュラン・プレルジョカージュ振付『ル・パルク』が全国公開されます。
『ル・パルク』の初演は1994年、パリ・オペラ座。モーツァルトの音楽が彩る18世紀のロココ式庭園を舞台にして、虚飾や厳格なエチケットに縛られた貴族たちの「恋のゲーム」が繰り広げられます。物語の核となるのは、愛に抗う女性と彼女を求める男性が織りなす「出会い」「抵抗」「解放」という3つのパ・ド・ドゥ。計算し尽くされた視線や仕草で駆け引きをする男と女は、やがて互いの社会的規範や心の鎧(よろい)を脱ぎ捨てて、むき出しの情熱へと身を委ねていく——。
今回上映されるのは、2021年3月にコロナ禍のパリ・オペラ座(ガルニエ宮)にて、無観客という特別な状況下で収録された映像です。
公開を目前に控え、本作で主役の「彼」を演じた元エトワールのマチュー・ガニオにインタビューしました。共に主演を務めたアリス・ルナヴァンのこと、本作の代名詞的な場面“フライング・キス”のこと、「愛とは何か」というテーマについて、そしてオペラ座を引退(アデュー)して1年が経った現在の率直な思いなどを語ってくれました。

マチュー・ガニオ Mathieu Ganio
1984年3月16日、フランス・マルセイユ生まれ。マルセイユ国立バレエ学校で学び、1999年パリ・オペラ座バレエ学校入学。2001年パリ・オペラ座バレエ入団。2004年5月20日、ヌレエフ版『ドン・キホーテ』バジル役を踊り、スジェから飛び級でエトワールに任命された。2025年3月1日『オネーギン』で、定年の42歳よりも1年早くオペラ座を引退。現在は日本を含め世界各地で数多くのプロジェクトやガラ公演等に出演している ©James Bort / OnP
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- 今回上映される『ル・パルク』は、2021年のコロナ禍中に無観客で撮影されたものだそうですね。
- ガニオ ええ、あの時はとても独特な雰囲気でしたから、特別な経験として今も心に残っています。観客がいないという特殊な状況ではありましたが、僕たちは十全にリハーサルをして、ヘアメイクを整え、衣裳を着て舞台に立ちました。映像として記録され、のちには画面越しにみなさんが観てくれるとわかっていても、目の前には誰もいない。そのような中で100%の力を出すのは難しいことでしたが、だからこそ純粋に「自分自身の踊る喜びのために踊っている」と感じられた面もありました。まるで自分たちだけの特別なバブルの中で踊っているような、不思議な感覚でしたね。
- マチューさんにとって『ル・パルク』は、自然体で心地よく踊れる作品ですか? それとも、チャレンジが必要な難しい作品ですか?
- ガニオ 両方の側面があります。まず、この作品のテーマは「愛」です。愛という感情を舞台上で表現するのは、とても心地がいい。僕はいつもその感情に自然に溶け込み、そこから何かを探し求め、楽しんで踊ることができます。いっぽうで、『ル・パルク』には非常に難しい部分もあります。この作品は他のバレエのように華麗なテクニックを見せるものではありません。観客のみなさんの目には、おそらくとてもシンプルな振付に見えることでしょう。しかしそのシンプルな動きをクリアに伝えるために、膨大な準備が必要なのです。振付のディテールを精確に作り上げ、一つひとつをつないでいく。プレルジョカージュ特有のスタイル、音楽性、パートナーや周りのダンサーたちとの調和など、すべてを計算し尽くした上で踊らなければなりません。テクニックを求められるバレエとはまた違った次元での難しさがある作品です。
- 初めてこの作品を踊った時、衝撃を受けたり驚いたりしたことはありましたか?
- ガニオ 今の話と重なりますが、やはりディテールへの徹底的なこだわりですね。シンプルな動きを舞台上でどう見せるか。そのためにどれほど精密に作り上げていく必要があるかということに、非常に驚かされました。また、僕はこの2021年の『ル・パルク』でアリス・ルナヴァンと初めて一緒に踊ったのですが、彼女との出会いも自分にとって印象深い出来事でした。

パリ・オペラ座バレエ「ル・パルク」アリス・ルナヴァン、マチュー・ガニオ ©Yonathan Kellerman / OnP
- マチューさんが演じる「彼」とはどのような人物でしょうか?
- ガニオ この役において大切なのは「自分自身であること」で、僕たちは自分の解釈で自由に演じることが許されています。つまり「彼」がどのような人物であるかは、演じるアーティストによって異なるというわけです。
僕は「彼」として、この作品が描く18世紀という時代を生きようとしていました。当時はいわゆる啓蒙思想の時代。理性や知性を重んじて生きる人々が、そんな社会の規範とまったく相反する愛や官能を内包している——そこに、「彼」を演じる楽しさを感じていました。
- 本作には「出会い」「抵抗」「解放」という3つの重要なパ・ド・ドゥがありますが、マチューさんがとくに素晴らしいと思うのはどれですか?
- ガニオ もちろん、ガラ公演等でも数多く踊ってきた「解放のパ・ド・ドゥ」には愛着があります。作品全体の集大成であり、愛の結末でもある、神秘的で美しいパ・ド・ドゥです。でもじつは、僕は2番目の「抵抗のパ・ド・ドゥ」にもすごく魅力を感じるんですよ。愛ゆえの葛藤や少し暴力的なまでの感情を、アリスと一緒に体験できるのは本当に楽しかった。彼女はとても芯が強く、僕の表現に真っ向から応えてくれるダンサーです。彼女と共に、舞台上で「抵抗のパ・ド・ドゥ」という激しい場面を生きることができたのは、とても良い思い出です。

パリ・オペラ座バレエ「ル・パルク」アリス・ルナヴァン、マチュー・ガニオ ©Yonathan Kellerman / OnP
- 『ル・パルク』と言えば聞かないわけにはいかないのが、「解放のパ・ド・ドゥ」の後半、二人が口づけをしたまま回り続ける“フライング・キス”についてです。あの場面はあまりにも有名なために、私たち観客はしばしば「来るぞ、来るぞ……」と待ち構えてしまうのですが、マチューさんとアリスさんのそれはシームレスに始まって、いい意味で全体に溶け込んでいました。あのシーンにおいて、マチューさんが心がけていることはありますか?
- ガニオ フライング・キスはパ・ド・ドゥの中でとくに印象的な瞬間ですし、観客のみなさんが楽しみにしていることもわかっていますから、僕も大切に踊っています。ただ、あのテクニック自体は、そこまで難しいものではないんですよ。もちろんパートナーと念入りにリハーサルをして、絶妙なバランスや遠心力を見つけ、転倒などのミスを防ぐ必要はあるのですが。むしろその前に出てくる、女性を両腕で水平に持ち上げてバランスを取るリフトのほうが、技術的にはずっとデリケートで高難度です。

パリ・オペラ座バレエ「ル・パルク」アリス・ルナヴァン、マチュー・ガニオ ©Yonathan Kellerman / OnP
- 先ほどアリス・ルナヴァンさんのお話が出ました。二人は対照的な持ち味のダンサーという印象がありますが、あなたから見て、アリスさんはどんなダンサーですか?
- ガニオ アリスはとても個性的なアーティストです。ただそこにいるだけで人の目を惹きつける、強烈なオーラと魅力を持っています。彼女は作品に対して確固たるビジョンを持ち、深く考えてリハーサルに臨むので、お互いに意見を交わしながら作品を作り上げていくプロセスはいつも刺激的でした。とりわけ『ル・パルク』に関して言うと、僕はこの作品を(パリ・オペラ座エトワールの)ドロテ・ジルベールとも踊ったし、「解放のパ・ド・ドゥ」は他の女性ダンサーたちとも踊ったことがあります。彼女たちの多くはどこか脆く繊細で、「彼」への愛を告白するようなアプローチでしたが、アリスはまったく違いました。彼女は決然とした態度で現れ、僕と対等か、あるいは僕よりも強いくらいの圧倒的なパワーで向かってきたのです。だから僕も、彼女のエネルギーに全力で応えなければなりませんでした。それがとても良かった。なぜなら恋愛の駆け引きにおいて、「彼」は「彼女」に最初から勝てるわけではありません。彼女を手に入れるために、彼は闘い、彼女を魅了しなくてはならないのです。それこそが『ル・パルク』のテーマであり、アリスとだからこそ生み出せた愛の表現は、僕にとって非常に興味深く、素晴らしい体験でした。

パリ・オペラ座バレエ「ル・パルク」アリス・ルナヴァン、マチュー・ガニオ ©Yonathan Kellerman / OnP
- 『ル・パルク』は愛についての作品だとのこと。少し抽象的な質問ですが、マチューさんにとって「愛」とは何でしょうか?
- ガニオ 愛とは壮大なテーマであり、それだけで全幕バレエが作れるでしょう! 愛には様々なかたちがあります。親子の愛、家族の愛、無私の愛、性的な愛……どんなに語っても語り尽くせぬものですが、僕にとって愛とは「生きるための原動力」です。愛は前に進む力を与えてくれます。いまの自分を乗り越え、コンフォートゾーンから抜け出す勇気を与えてくれます。そして、生きていることを実感させ、人生に意味を与えてくれます。それが愛というものだと思います。
- マチューさんがパリ・オペラ座バレエを引退してちょうど1年が経ちました。この1年で、ダンスに対する向き合い方や思いに変化はありましたか?
- ガニオ オペラ座の所属ダンサーではなくなったことで、仕事の選び方や取り組み方の自由度は大きく増しました。ただしそのぶん、毎日ダンスだけに没頭することはできなくなりました。以前はオペラ座での活動が生活の主軸でしたが、現在は他の様々な仕事にも時間を割かなくてはいけません。僕は本来、稽古場でじっくりと時間をかけ、思考を掘り下げて、作品を探究していく作業が大好きです。そうしてギリギリまで完成度を高めた舞台を観客のみなさんに差し出すことを、誇りに思ってきました。けれども今は、いろいろな場所に出向いて短期集中で練習し、本番を踊って幕が下りたらそれで終わりです。そのことが少し寂しくて、オペラ座で過ごしていた頃が恋しくなることもある。正直に言うと、それが今の僕の気持ちです。

パリ・オペラ座バレエ「ル・パルク」アリス・ルナヴァン、マチュー・ガニオ ©Yonathan Kellerman / OnP
上映情報
パリ・オペラ座 IN シネマ 2026
バレエ『ル・パルク』
2026年3月13日(金)~3月19日(木)※1週間限定
TOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開
★上映館、スケジュールなど詳細は公式サイトをご確認ください
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
舞台デザイン:ティエリー・ルプルースト
衣裳デザイン:エルヴェ・ピエール
照明デザイン:ジャック・シャトレ
演奏:パリ・オペラ座管弦楽団
指揮:ベンジャミン・シュワルツ
ピアノ:エレナ・ボネイ
映像監督:ルイーズ・ナルボニ
【出演】
アリス・ルナヴァン
マチュー・ガニオ ほか
2021年3月9日・11日 パリ・オペラ座ガルニエ宮にて収録
【上映時間】
1時間37分 ※休憩なし
【上映劇場】
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*ユナイテッド・シネマ浦和(埼玉)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドスクエア シネマ(愛知)
*イオンシネマ京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*キノシネマ天神(福岡)