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【動画&インタビュー】デヴィッド・ビントレー(振付家)〜ずっと作りたかったバレエ「雪女」。自分を自由にして、日本の美を表現したい

阿部さや子 Sayako ABE

動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)

アシュトン、マクミランの系譜を継ぐ、現代英国バレエを代表する振付家デヴィッド・ビントレー。1995年〜2019年まで24年間にわたりバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)芸術監督を務め、2010年〜2014年には新国立劇場の舞踊芸術監督を兼任。現在はフリーランスの振付家として世界各国のバレエ団で新作を振付けるなど活躍しています。

2024年3月16日・17日にスターダンサーズ・バレエ団が上演するのは、振付家・ビントレーの多彩な魅力を堪能できるトリプル・ビル「オール・ビントレー」。今回スターダンサーズ・バレエ団のために振付ける新作『雪女』と、日本初演となる『The Dance House』、そして同団の人気レパートリーとして上演を重ねている『Flowers of the Forest』の3本立てです。

3月初旬、いよいよ佳境を迎えつつあるリハーサルの現場を取材。午前中から夕方まで、時折ユーモアも交えながらダンサーたちにみっちり指導をした後のビントレー氏に話を聞きました。

Special Interview
デヴィッド・ビントレー David Bintley

今日は新作『雪女』の冒頭とラスト、そして『The Dance House』『Flowers of the Forest』と3作品のリハーサルを見学させていただきました。ダンサーたちも生き生きと踊っていましたね。
リハーサルは順調です。とくに新作『雪女』が非常にうまくいっています。新作を創るというのは旧作を練習するよりもずっと労力を要するはずなのに、どういうわけか今回は3作品のなかでいちばん順調かもしれません(笑)。しかしいずれの作品でもダンサーたちの反応がとても早く、アドバイスをすればすぐに修正してくれます。おかげで毎日充実したリハーサルができていますよ。
スターダンサーズ・バレエ団やダンサーたちの印象は?
才能豊かなダンサーが揃っているだけでなく、真面目で努力を惜しまない。そして新しいことに対して意欲的です。この規模のカンパニーが、リスクを冒しても新しい作品に挑戦するのは素晴らしいこと。新制作とは、すでに存在している作品を教わってそれを再現するのとは性質の異なる作業です。もちろん、難易度はより高い。私がどんな作品を創り上げられるかは、一緒に仕事をしている人たちにかかっています。私と同じく、彼らもまた、この新しいバレエの作り手なのです。
まず『雪女』についてお聞きします。ビントレーさんは小泉八雲の小説からこの作品を着想したそうですね?
その通りです。新国立劇場バレエ団で仕事をしていたとき、何か日本的なアイディアを活かしたバレエ作品を作りたいと考えていて、日本文化を扱った本をたくさん読んでいました。そんななかで出会ったのが小泉八雲、つまりラフカディオ・ハーンの小説集『怪談』で、そこに『雪女』が収録されていたのです。その物語を読んで、私はすぐにハンス・クリスチャン・アンデルセンの『妖精の接吻』と、それをバレエ曲として書いたストラヴィンスキーの「妖精の接吻」を思い出しました。

じつは、私は以前から「妖精の接吻」で振付を作りたいという気持ちを持っていました。しかし、すでにたくさんの振付家がこの曲で作品を作っているのです。アシュトン、バランシン、マクミラン……もはや自分が新たにできることは何もない、と思っていました。ところが「雪女」を読んだ時、「これはうまくいくのではないか」とひらめいた。ストラヴィンスキーの音楽にもぴたりと調和しそうだと。じつは物語としても、『雪女』のほうが『妖精の接吻』より優れています。なぜなら想像を膨らませる余地があるから。『妖精の接吻』では、妖精がいて、恋人がいます。でも『雪女』は、妖精と恋人が同一人物なのです。だから非常に面白い。演じるダンサーにとっても、より興味深く演じられるのは『雪女』のほうだと思います。

©︎Ballet Channel

ストラヴィンスキーの音楽が、極めて日本的な物語である「雪女」にぴったりというのも面白いですね。
ストラヴィンスキーの「妖精の接吻」は物語の舞台をスイスに設定しているので、音楽の中にもスイス的な要素が聴こえます。同時にこの曲はチャイコフスキーの楽曲に基づいて作られていて、日本的な響きも感じられるのです。創作の過程では時として、本来は合わないものどうしを強引にフィットさせなくてはいけないようなことも起こります。でも、今回はそれがまったくなかった。もちろん、本当にうまくいっているかどうかは、幕が開いて批評家のみなさんが何と言うかを待たなくてはいけませんが(笑)。
今日のリハーサルでは衣裳やセットも一部だけですが使われていました。衣裳はリアル、セットは象徴的という印象で、「そうきたか!」と思いました。
今日は大道具の障子の動かし方を試したかったので、それらのシーンを稽古しました。といっても、今日使ったのはまだ模型なのですが。障子と、背景には大きなスロープ、白い床。そしておそらく月があって、雪がある。村のシーンでは富士山や梅の花で季節を演出します。でも、それだけです。美術はとてもシンプルにしようと考えています。空間に何もないこと(エンプティネス)や簡素さにこそ、日本の美学があると思うので。すべては踊りで表現します。

©︎Ballet Channel

巳之吉と茂吉の衣裳を確認中。写真左端は『雪女』の美術を手がけるディック・バード氏 ©︎Ballet Channel

日本の物語をダンス作品にするのは難しいですか?
それは本当に興味深く、複雑な質問ですね。というのも、私は以前ベンジャミン・ブリテンのバレエを日本風にアレンジした『パゴダの王子』という作品を作り、その時はダンサーたちに着物を着て踊ってもらいました。着物を衣裳として用いることで、極めて日本的な世界観を表現しようと考えたからです。しかし『雪女』は物語の舞台が農村で、登場人物たちは貧しい農民です。じつは、それがとても助けになっています。なぜかというと、ダンサーたちにフォーマルな服装をさせる必要がないから。農民たちの衣裳というのはそもそも動きやすく、「こうでなくてはいけない」という制約もさほどありません。例えば田植えをするとなれば、女性たちは着物をたくし上げて足をむき出しにする、といった具合です。

今回の作品はあくまでもバレエのテクニックで振付けていて、日本的な所作や日本舞踊的な動きにはこだわっていません。なぜなら、これは「バレエ」だから。日本の物語を表現するバレエであり、私が目指すのは、その美学を正しく伝えることです。ですから衣裳にこだわりすぎたり、日本の物としての「正しさ」を追い求めたりするよりも、自分に自由を与えること、自分を制限しないことのほうを大切にしています。スターダンサーズ・バレエ団のみなさんも、それを望んでいると思う。

そして気になるのは物語の結末です。噂(?)によると、ビントレーさんは「意外な結末」を用意しているとか……。
確かに、最もよく知られた筋書きとは少し違っているかもしれませんね。一般的に知られているのは、雪女が「私はお前を殺さない。だから子どもたちの面倒を見ろ。もしも子どもたちに何かあったら、その時は戻ってきてお前を殺す」と言いますね。でも、私のバージョンでは少し違います。もっと詩的で、もう少し問いかけるような感じ、というのでしょうか。彼女は彼を殺しません。でも、彼が息子たちと共に死ななかったかどうかはわからない。私は観客に問いを残したいと思っています。
私たちが想像できる余白を残しておくと。
その通りです。ある時、私はふと「もしかすると、巳之吉はお雪と結婚しなかったのかもしれない」と思いました。もしかすると、子どもなんていなかったのかもしれない。もしかすると、彼は冬の雪の中で死んだのかもしれない。だとしたら、じつは何も起こっていなくて、すべてはただの夢だったのかもしれない。……そんなことを考えてみたりもしました。

そして『雪女』がじつに面白いのは、物語が「始め」に戻って終わるところです。最初に雪女がやってきて、茂作が死に、巳之吉もまた殺されそうになる。しかし雪女は彼がまだ若くて美しいのを見て、「ここでの出来事を絶対に人に話すな。さもないと私はまた戻ってくるぞ」と言う。そしてもちろん巳之吉は話してしまい、雪女は戻ってきます。つまり、物語が一周するんです。そこがとても気に入っています。

©︎Ballet Channel

続いて『The Dance House』について。これはビントレーさんが「死の舞踏」からインスピレーションを受け、亡くなった友人への哀歌として振付けたもので、デザインを「現代のドガ」ことロバート・ハインデルが手がけたとのこと。日本のバレエ団が上演するのは初めてですね。
おっしゃる通り、この作品は中世の「死の舞踏」をイメージして作ったものです。中世ヨーロッパでは、全村をあげて人々が半狂乱で踊り狂うという現象が起こることがありました。あるいは死者がやってきて、みんなを死の踊りに導くというモチーフがありました。文字通り、死ぬまで踊るのです。

ある頃、私はショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番を聴いていました。そんな時に、友人がエイズで亡くなったという報せを受けた。その友人はスクール時代の同級生で、のちにはバレエ団の同僚でもありました。彼の訃報を聞いた時、友人の死、中世の「死の舞踏」、リストの「Totentanz(死の舞踏)」、そしてショスタコーヴィチが突然つながったのです。バレエが見えたとまでは言いませんが、文字通り、一瞬でピタッ!とすべてがつながりました。ですからこの『The Dance House』は、中世の「死の舞踏」というアイデアと、「死」そのものが根底にあるバレエです。同時に、バレエスタジオの情景の中で綴られるバレエでもあります。というのも、バレエスタジオは私がその友人に出会った場所であり、彼はバー・レッスンが大好きだったから。彼はとても美しいラインの持ち主でした。センター・レッスンはちょっと苦手で、いつもバーの傍らで身体を温めたりトレーニングをしたりしながら、鏡を見ていました。そのイメージを、この作品では女性ダンサーに投影して振付けています。

『The Dance House』第2楽章のリハーサル風景より。「この場面のパ・ド・ドゥはとても難しい。トリッキーなリフトもあります。これはクラシックのパ・ド・ドゥというよりも、コンテンポラリーな雰囲気の振付です」とビントレー氏 ©︎Ballet Channel

本作は第1から第4まで4つの楽章で構成されています。まず第1楽章で、たくさんの女性ダンサーたちがいる中に、ひとりの男性ダンサーが入ってきますね。リハーサル中、ビントレーさんが「彼はウイルスなのだ」と説明していたように聞こえたのですが……?
ええ、そうです。彼は恐ろしいけれど、ユーモラスでチャーミング。いわゆる「不気味な存在」です。第1楽章について少し説明しましょう。そこにいる女性たちはみな同質で均一的な集団です。みな一様に純粋無垢で、健康な身体そのもの。みんな同じです。なのに、その中の1人だけが、彼に捕らえてしまうのです。まさにウイルスというものがそうであるように。たとえば私はコロナに罹ったことがない。自分の周りにコロナで亡くなった人もいない。しかし実際には、何百万人もの人が亡くなっています。なぜ? どうして、ある人は罹って、ある人は罹らないのでしょうか? 不思議ですよね。

『The Dance House』を直接指導するビントレー氏 ©︎Ballet Channel

フィナーレにはまさに「死の舞踏」としか言いようのない怒涛のダンスが待っています…… ©︎Ballet Channel

最後に『Flowers of the Forest』について。これはすでにスターダンサーズ・バレエ団がレパートリーとして何度か上演している作品ですね。
この作品は1979年に『4つのスコットランド舞曲』に振付けたもので、私が作った中で最も古い作品のひとつ。振付を始めて2作目にあたる作品です。この小品には2つのパートがあって、1つ目のスコットランドのダンサーたちの踊りは、スコットランド文化の典型的なイメージを表現しています。つまりウイスキーを飲んだり、音楽を聴きながら酔っぱらったり、ヘザー(スコットランドの代表的な花)の中を歩いたり……いわゆる “絵葉書 “のような光景。現実ではなく、一種のファンタジーですね。

『Flowers of the Forest』という曲は、カロデンの戦いの後に書かれたものです。スコットランドの人々は自分たちの国にとても誇りを持っている。自分たちの歴史や民族衣装など、すべてに誇りを持っています。それを表現したのが、この作品の2つめのパート。そしてフィナーレで、現代の絵葉書的な情景と、古くて歴史的なスコットランドが、突然ひとつになります。そこが自分としてはとくに気に入っています。

ビントレーさんが振付家になったばかりの頃に作った作品と、英国バレエを代表する振付家になったいまの作品を、一度に見ることができるプログラムなのですね。
私のキャリアのすべてをお見せするような、バランスの取れたプログラムだと思います。じつのところ、自分の作品でトリプルビルを組むのはとても難しい。長編バレエを作るほうがよほど簡単だと思います。もちろん、例えばバランシンのように、何百もバレエを作っていてもすべてが同じ美意識に貫かれている振付家であれば、3本立てを組むのもさほど難しくないかもしれません。でも、私は違います。まじりっけなく一貫した美学に基づいて作品を作るタイプではありません。私の創作はすべて自分の内面から出てくるものであり、人を感動させたいし、何かを伝えたい。メッセージ性があるとは言わないけれど、『雪女』のようなストーリーであれ、『The Dance House』のような力強い感情であれ、あるいはもっと伝統的なモチーフであれ、そこには常に何らかのテーマがあります。単なるステップでは決してありません。だから、バランスよくプログラムするのが難しいのです。でも今回はうまくいくと思いますよ。ストーリー性の高い演目もあるし、ステップがふんだんに詰まったダンスもありますから。
ところで、ビントレーさんは約四半世紀にわたってバレエ団の芸術監督を務めたわけですが、その任務から退いて以降、生活は変わりましたか?
ええ、ずいぶん変わりました。そのポジションを離れるのはつらくもありましたが、時期が来たということだと思っています。それにヨーロッパにおけるバレエ団の監督という仕事は、もう30年前とは違います。かつてはもっとお金もあったし、資源もありました。人事的な仕事も、管理的な仕事も、政治的な仕事も少なくてすみました。当時の私たちは、純粋にダンスや舞台を作ることが許されていた。しかしこの15年で、世界中が財政的な問題を抱えるようになりました。バーミンガム・ロイヤル・バレエのようなダンス・カンパニーでは、政治的なこと、教育的なこと、社会的なことがより重要視されるようになり、予算は減り、新制作も減りました。『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』といった作品に頼ることも多くなりました。「もっと新しいことを」と常に挑戦していた30年前とは、もう違います。ですから、自分はこれで良かったのだと思っています。
クリエイティブな仕事により集中できるようになったということですね。
そうですね。フリーの振付家ですから、ずっと仕事をしているわけではありません。でも、それでいいのです。なぜならもう若くはないし、かわいい孫もいますから。幸せなことに、最近作った3つのバレエは、私がずっと作りたかった作品です。フィンランド国立バレエで作った『クリスマス・キャロル』、サラソタ・バレエではシェイクスピアの『間違いの喜劇』を作りました。そして、スターダンサーズ・バレエ団の『雪女』。この3つのバレエは、文字通り、私が振付家としてのキャリアの中で、ずっと手掛けたかった作品です。本当に長い時間をかけて、これらの作品について考え続けてきました。
最後に、日本のバレエファンにメッセージを。
私はとても幸せです。日本で仕事をするのは、いつもわくわくします。日本の方々はとても誠実で、世界でもトップレベルの観客だと思っています。みなさん、いつもありがとう。今回の新作は、日本の素晴らしい物語『雪女』です。ぜひ劇場で、私たちの仕事の成果をお楽しみください。

デヴィッド・ビントレー(David Bintley)英国ハダースフィールド出身。英国ロイヤル・バレエ・スクール卒業後、サドラーズウェルズ・ロイヤル・バレエ(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ)入団。卓越したキャラクター・アーティストとして活躍。1986~93年英国ロイヤル・バレエ団レジデント・コレオグラファー。1995~2019年バーミンガム・ロイヤル・バレエ団芸術監督、2010~14年新国立劇場舞踊芸術監督を兼任。舞踊界への功績から2001年に大英帝国勲章CBEを、2020年にKBEを授与された。 ©︎Ballet Channel

【動画レポート】スターダンサーズ・バレエ団「雪女」リハーサル(3/16-17上演「オール・ビントレー」より)

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公演情報

日時

2024年
3月16日(土)14:00開演(13:15開場)
3月17日(日)14:00開演(13:15開場)

※16:00終演予定
※13:40~ 総監督 小山久美氏のプレトークを予定

会場

新国立劇場 中劇場

詳細・問合 スターダンサーズ・バレエ団WEBサイト

 

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