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【インタビュー】東京バレエ団「かぐや姫」翁役:岡崎隼也~かぐや姫への大きな愛をまっすぐに

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©Ballet Channel

2026年5月5日(火)〜6日(水)、東京バレエ団がグランド・バレエ『かぐや姫』(演出・振付:金森穣)を上演します。日本最古の物語『竹取物語』を原作に、2年7ヵ月を掛けてクリエーションに取り組んだ本作。1幕ずつの上演をかさね、2023年に全3幕を通しての世界初演が行われました。3年ぶりの再演となる今回は、5月7日で休館になる東京文化会館最後の舞台。なお同作はこの後2026年(イタリア)、2027年(フランス)の海外公演での上演(イタリアは第1幕、フランスは全幕)が決定しています。

今回は、初役で翁を演じるソリストの岡崎隼也さんにインタビュー。『かぐや姫』再演に向けての取り組みのほか、振付家としても活動する岡崎さんの創作へのこだわりや思いを聞きました。

岡崎 隼也 Junya Okazaki
和歌山県和歌山市出身。9歳からモダン・ダンスを、14歳でクラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスを始める。2008年3月東京バレエ団に入団、同年『ドナウの娘』で初舞台を踏む。2016年ソリスト。おもな出演作品は『眠れる森の美女』『ラ・バヤデール』『海賊』『ジゼル』、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』『ドン・キホーテの夢』、モーリス・ベジャール『くるみ割り人形』『ザ・カブキ』『春の祭典』、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアン作品など。振付家としての活動も精力的で〈Choreographic Project〉では、2017年の初回から毎年作品を発表している ©Ballet Channel

2026年5月の『かぐや姫』全幕再演で、岡崎さんは翁役を演じます。キャストを知らされた時、最初にどう感じましたか?
岡崎 「……僕、ですか?」って思いました。僕は演技は大好きですが、コンテンポラリーや現代作品では、どちらかというとキビキビ踊るタイプのダンサーです。そんな僕が、ただ舞台の上に立っているだけで物語れるような技術を必要とする翁を演じても大丈夫なのかな、という気持ちが大きかったです。
翁は、第1幕初演時には飯田宗孝さん(東京バレエ団元団長)が、第2幕初演からは木村和夫さんが演じました。黒衣役を務めた岡崎さんには、ふたりの翁像はどう映りましたか?
岡崎 飯田先生の出演については、演出・振付の金森穣さんが「この役はどうしても飯田先生でお願いしたい」とおっしゃったという経緯があります。先生が本質的に持っていらっしゃる柔らかい雰囲気と、その中にちゃんと威厳もある感じが、穣さんの翁像にぴったりだったのだと思います。第2幕のクリエーションから翁役を引き継がれたのが木村和夫さんで、飯田先生とは真逆の雰囲気を持った翁を演じられました。当時の会見で穣さんもおっしゃっていましたが、飯田先生が太陽ならば、木村さんは月。とても対照的な翁像でした。

東京バレエ団「かぐや姫」2023年全幕初演より  ©Shoko Matsuhashi

岡崎 今回、どちらのイメージで僕はキャスティングされたのだろうと思っていたところ、穣さんに「隼也は隼也の翁を演じていい」と言っていただいて、少しホッとしました。僕がどんなにおふたりの翁像を追いかけても、オリジナルに勝るものはありませんから。リハーサルでは、歩き方や立っている時の足腰などを無理矢理“おじいさんっぽく”演じようとしないように、とも注意されています。穣さんが僕に求めているものを稽古場で構築しながら、最終的には、役の中に僕自身の本質みたいなものがにじみ出てくるように演じられればと考えています。

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金森さんとのリハーサルはいかがですか?
岡崎 穣さんは、指導の時にご自身で実際に踊って見せてくれるんですよ。振付家ご本人の動きを直接見て学ぶことができたのは、とてもありがたかったです。
翁が踊る場面の振付などに変更はあるのでしょうか。
岡崎 基本的な振付は変わりませんが、僕が演じることでよりアクティブな動きに変更されました。例えば、竹やぶで見つけた小さなかぐや姫を両手で包むようにして帰る途中で、突然かぐや姫がピョン!ピョン!とあちこちに動きだす場面では、思い切り跳んではねてほしいと言われています。
翁という人物をどう演じようと考えていますか?
岡崎 かぐや姫への大きな愛情をまっすぐに演じたいと思います。自分の元に突然やってきたこの女の子のことが、翁は可愛くて仕方がないんです。父親として、この子を幸せにしたい。大きくなるまで育てて、なんとかしていいところに嫁がせたい。でも、そのためには愛情だけでは叶えられないものがあるんですね。翁が少しずつ闇に堕ちていくのは、欲に目がくらむというよりも、純粋な愛情ゆえに起こってしまったことなのかもしれません。

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舞台で演技をする時、岡崎さんがとくに大事にしていることを教えてください。
岡崎 舞台上のダンサー同士で、きちんとキャッチボールができているかですね。演技は対話から生まれるものです。相手から投げ返される表情や反応によって演技がふくらむこともありますし。基本的なことですが、これがなくては演技は成り立ちません。また、同じ作品を何度も演じていると、無意識のうちに慣れがでてしまう。僕は自分が舞台上でつねに楽しんでいないと、お客様を楽しませることはできないと思うんです。だから毎回新鮮な気持ちで、本気で楽しむという意識をもって舞台に上がるようにしています。
どんなところから演技のインスピレーションを得ていますか。
岡崎 映画はよく観ます。昼間はあまり時間が取れないので、週末のレイトショーに足を運んだり、サブスクを利用して自宅鑑賞することが多いです。あと、リハーサルを観ていて面白い演技や反応をしているダンサーを見つけたら、試しに同じ動きをやってみることも。いいなと思ったものはどんどんインプットして活用します。演技としてアウトプットできるのは、自分の中にあるものだけですからね。

東京バレエ団「かぐや姫」2023年全幕初演より。右から2番目は童役を演じる岡崎さん ©Shoko Matsuhashi

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岡崎さんはダンサーとしてだけでなく振付家としても活動しています。その視点から、金森さんの振付指導のここが興味深い、というところを教えてください。
岡崎 まずは音楽への敏感さや聴覚の鋭さですね。『かぐや姫』の音楽は全曲ドビュッシーですが、選曲も使用音源も穣さんが定めています。つまり舞台で流れるのは穣さんの耳にかなった音たちです。何度も何度も同じ音を聴きながら振付が完成していく工程を見ていると、振付によって音楽が可視化されていくような印象を受けます。
もうひとつはクリエーションのやり方の多様さです。穣さんの場合は、譜面(音)に対して振りを当てていく時もあれば、ご自身の耳に任せてその場で振りを生み出す時も、事前に準備をしてきた振りを渡してくださる時もあって、ひとつに決まっていないんです。それはやはり、穣さんがたくさんの作品を作ってきた経験があるからだと思います。そして、穣さん自身がいろいろな振付家のクリエーションを見てきたからでもあるでしょう。穣さんの作品を観ていると、ふと、ベジャールさんの面影を感じることがあるんですよ。振りもニュアンスもまったく違うのに不思議です。ルードラで学ばれた穣さんの経験が活かされているのでしょうね。
岡崎さんは、6月の〈The Tokyo Ballet Choreographic Project 2026〉でも新作を発表するそうですね。振付を考える時、いちばん大事にしていることは何ですか?
岡崎 何がクリエーションの発端かによって変わります。踊ってほしいダンサーがいた場合、音楽からインスピレーションを受けた場合、踊りで表現したいテーマがある場合など。今回はテーマからつくった作品と、音楽から得たインスピレーションをテーマに昇華させた作品を発表します。音楽は2007年にリリースされた楽曲を使用します。僕はその曲が大好きで、発売当初からずっと聴いてきました。聴き始めて19年も経って、やっと作品になります(笑)。
振りをつくる時は、頭で考えるほうですか? 動いてみるほうですか?
岡崎 動きます。それも、踊ってもらうダンサーと最初から対峙しながらつくっていくことがほとんどです。この理由はふたつあって、ひとつは自分の頭の中でつくった振りが、ダンサーにフィットするとは限らないから。これで後悔したことがたくさんあるんです。もうひとつは、ダンサーと対峙することで生まれるイレギュラーを大事にしているから。ダンサーが僕の意図しない方向に進んだ時こそ、面白いんです! 先に作り込んでしまっていたら絶対に起こらないことじゃないですか。
すべての振りを自分の手でつくりたいという振付家もいると思います。でも、僕は広い視野で振付けていきたい。この人に踊ってもらいたいと思ってキャスティングしたダンサーたちのいい部分を出していくためなら、自分の考えに固執しなくてもいいと思っています。

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ご自身の振付を踊ることは?
岡崎 (即答で)自作自演は嫌いです。
それはなぜですか?
岡崎 自分が踊るために振付けると、無意識に自分が動きやすいようにしてしまうんです。癖はいい方向に働いていれば魅力になりますが、それが作品の邪魔をすることも絶対にある。僕は踊ることが大好きですし、いちばん幸せなのは舞台で踊っている時だと思います。でも、自分の周りには僕以上にすごい踊りができるダンサーがいっぱいいる。僕の作品は彼、彼女たちにこそ、踊ってもらいたいんですよ。
悩んだり落ち込んだりすることはありますか? その時はどうやって乗り越えますか?
岡崎 めちゃくちゃ悩みますし落ち込みます。ただ、ぎりぎり昭和生まれの僕の中にある“なにくそ根性”が、凹んでいる自分自身にイライラして来て(笑)。「自分が自分に負けてどうする! そんな自分に絶対勝ってやる!」って気持ちがどんどん湧いてくるんですよ。
この公演を楽しみにしている観客にメッセージをお願いします。
岡崎 3年ぶりの『かぐや姫』再演。新しいキャストも増え、僕も初役にチャレンジさせていただきます。東京文化会館の改修工事を前にした最後の舞台でもあり、バレエ団にとって、大きな節目の公演になると思います。
『かぐや姫』は古典作品とは違い、まだまだ現役で踊っている振付家の手で生み出された作品です。日々アップデートされていきますから、今回お届けする『かぐや姫』は二度と観られないかもしれません。3年前の全幕初演をご覧になった方には、今回そのアップデートの過程をリアルに感じていただけるでしょう。よく知っている古典バレエとは違って、新しい作品を観に行くのはちょっと勇気がいるという方もいらっしゃるかもしれませんけれど、ぜひ劇場に来ていただきたいです。固定観念にとらわれず、作品そのものを楽しんでもらえたら嬉しいです。

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公演情報

東京バレエ団×金森穣
グランド・バレエ『かぐや姫』全3幕

東京バレエ団「かぐや姫」2023年全幕初演より ©Shoko Matsuhashi

【日時】
2026年5月5日(火祝)13:00/18:30
2026年5月6日(水祝)14:00

【会場】東京文化会館 大ホール

※上演時間:約2時間40分(休憩2回含む)

【スタッフ】
演出・振付・空間デザイン:金森穣
音楽:クロード・ドビュッシー
衣裳デザイン:廣川玉枝(SOMA DESIGN)
木工:近藤正樹
映像:遠藤龍
照明:伊藤雅一(RYU)、金森穣
演出助手:井関佐和子
衣裳製作:武田園子(Veronique)

【キャスト】
かぐや姫:秋山瑛、足立真里亜
道児:大塚卓、柄本弾
影姫:沖香菜子、金子仁美
帝:池本祥真、生方隆之介
翁:岡崎隼也

公式サイトこちら

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